第11章 ハートの秘密 ( 城戸 桜太 )
「・・・シャワー、浴びて来る」
ムクリと体を起こし上げ、力なくフラリと立ち上がって、着替えを取りに1度自分の部屋へと重い足を運んだ。
ジャケットから腕を抜き、皺伸ばしのスプレーを吹きかけハンガーに掛ける。
どれだけ落ち込んでいても、普段から身に付いた習慣が・・・今は何だか、悲しい。
シュルリとネクタイを緩め、シャツのボタンを2つほど開ける。
少しだけ、新鮮な空気が肺に訪れては、疲労の色をつけて抜け出て行く。
手早くベルトも外し、それもハンガーに引っ掛けた。
「行くか・・・」
着替えを持ち、脱ぎ掛けのシャツに緩めたネクタイを下げたままシャワールームに向かった。
衣服を脱ぎ、少し乱暴に洗濯機に放り込んでみるも・・・
やはり習慣ついた事に違和感を感じ、ネットにシャツを入れ直し、洗濯機にまた入れる。
ハハッ・・・どんだけ主夫なんだよ、俺は。
悲しい笑いが漏れて、片手で顔を覆ってみた。
コックを捻り、暫く頭からシャワーを浴び続ける。
いつから俺は、こんなにメンタル弱くなったんだ?
いや・・・最初からか。
特に、紡の事に関してだけだけど。
溺愛、しすぎか?
いや・・・そんな事はない。
むしろ、どれだけ愛情を注いでも足りない位だ。
殊更、父さん達が不在の今は・・・俺達がしっかりしないとだから。
昔から、甘えん坊で、ちょっとだけ・・・わがままな時もあって。
すぐ泣くし。
拗ねるし。
怒るし。
だけど、それでも可愛くて仕方ない。
俺達の大事な、妹だから。
シャワーの温度を上げて、湯気でいっぱいにする。
熱いシャワーを浴びてスッキリしよう。
とりあえずは、消毒液の臭いを何とかしたい。
1日病院にいると・・・どうしても、ね。
気にしすぎかと思うけど、それでもやっぱり・・・消毒液の香りは落ち着かない。
ここは、家族の温もりを感じられる唯一の俺の居場所だから。
たったひとつの癒しが、帰りを待っていてくれる場所だから。
・・・いま、追い出されたばかりだけど。
髪を洗い流し、泡立ちのいいボディーソープで体を洗っていると、シャワールームにスッーと風が入ってくる。
「・・・慧太、お前はいつから覗きの趣味が増えたんだ?」
振り返りもせず言って、シャワーで全身の泡を流し始める。