第11章 ハートの秘密 ( 城戸 桜太 )
「・・・そのまま死んどけよ」
慧「おーい、仮にも医者がなんつー事を」
「うるさい」
それだけ言って、無理矢理に会話を切る。
それでも暫く笑い続けたあと、慧太が歩み寄って来た。
慧「桜太?慧太サマがいい事を教えてやろう」
「いい事って?」
ソファーに深く凭れながら、チラリと慧太を見る。
慧「オレは紡を病院から連れて帰る途中で・・・」
「途中で、なんだよ」
わざわざ勿体つけて・・・
慧「大好き!って、言われたぞ?」
紡にか?!
「な・・・なぜだ・・・」
俺はつい今さっき、嫌いって言われたのに。
慧太は逆に・・・大好き、とか?!
・・・有り得ないだろ。
ダメだ・・・俺はもう、明日から生きていけないかも知れない。
パタリとソファーに倒れ込み、眩しすぎるリビングのライトに目を閉じた。
慧「ハッハッハ~!形勢逆転だな?ア・ニ・キ」
そんな事を言う慧太が、どんな顔で俺に言ってるのかなんて見なくても想像がつく。
「俺もう今日は立ち直れない・・・」
クッションを抱えて顔を伏せ、更にソファーに身を沈めた。
小さい頃の紡は、どんな事があっても・・・
『おぅちゃん大好き~!つーちゃん、おぅちゃんと結婚する!』
とか言ってて。
もう少し大きくなった頃には・・・
『桜太にぃ助けて!慧太にぃが意地悪する!』
とか言って、いつも俺の側にいたのに・・・
なぜ、今このタイミングで慧太に大好きとか言って・・・俺には・・・あんな・・・
いっそ、泣きたい。
でも、大人になり過ぎて・・・泣けない・・・
シスコンだと言われても、今更そんなの構わない。
ずっと言われ続けて、慣れてるから。
俺も、慧太も・・・
はぁ・・・と、ひときわ大きくため息を吐く。
慧「ま、桜太はシャワーでも浴びて来いよ?飯の支度はやっとくから、出て来たら食おうぜ?」
食事?
そんなの、喉を通るわけないだろ。
下手したら・・・味さえ分からないって言うのに。
「・・・精神疲労が多過ぎて、食欲ない」
慧「あっそ。紡が作ったのに食べないとか、更に嫌われんぞ?・・・いーんだな?」
笑いを堪える気配を丸出しにしながら、慧太が俺の頭をぺチンと叩く。
更に嫌われる?!
・・・そんなの、いいわけないだろ!!