第11章 ハートの秘密 ( 城戸 桜太 )
紡が夕飯を食べた形跡がないという慧太からの話を聞いて、気になって部屋まで行ったけど・・・
『しつこい桜太にぃは嫌い!』
そう叫ばれて。
挙句の果てに部屋から追い出され、鍵まで閉められてしまった。
それからどう声を掛けても鍵はもちろん、ドアを開けてもらえることも出来ないまま、小さく息を吐いて・・・リビングに戻る為に階段を降り始めた。
よく、何か大きな決断をする時に
« 清水の舞台から飛び降りる気持ちで »
なんて比喩が使われるけど。
今の俺は、その気持ちに近い。
階下へ向かう階段の一段ずつが、言わば清水の舞台のようで、ひとつ降りる度に・・・気持ちが落ちて行く。
しつこい桜太にぃは嫌い!
桜太にぃは、嫌い!
・・・嫌い!
・・・・・・・・・。
紡の言葉が脳内でリフレインして、リビングのドアに辿り着く頃には体全体が泥の様に重くなっていた。
重く息を吐きながらリビングへ入り、持ち合わせていた救急箱を片付けていると慧太から声を掛けられる。
慧「桜太、何かあったのか?」
「紡は・・・元気だったけど・・・」
それ以上続かない俺を一瞬怪訝そうに見て、慧太が俺に問う。
慧「喧嘩でもしたのかよ?」
「いや、そういう事じゃない」
慧「いったい何だってんだ?」
「紡が・・・」
慧「紡が?」
「・・・桜太にぃ嫌い!って」
言いたくない言葉を、自分の口から慧太に伝えなければならないとは・・・不覚。
慧「そんだけ?」
「大事件だよ・・・俺には」
ポソッと言えば、一瞬の間を開けて慧太が思い切り笑い出した。
慧「プッ・・・アッハハハハハハッ!!!!」
あまりに笑い過ぎて立っていられないのか、慧太はキッチンカウンターに凭れ掛かる。
「笑い事じゃないから!」
慧「そんくらいで死相が出るほど落ちてんじゃねーよ!!オレなんか紡に年中言われてんぞ」
「それは慧太が必要以上に構うからだろ・・・俺は正面切って嫌いって言われた上に・・・部屋から押し出されて・・・鍵まで・・・」
しまった・・・
鍵まで閉められたなんて、言わなければ分からないのに、それを聞いた慧太は更に笑い続ける。
「慧太、そろそろ怒るよ」
慧「お前こそ、オレを笑い死にさせる気かっ!」
そんな事まで知るかよ。