第1章 〖 恋よりも、愛よりも 〗人気投票1位記念 城戸 桜太
喉の乾きと、蒸し暑さで目が覚める。
いつの間にか・・・眠っていたのか。
暗闇に目を凝らし時計を見ると、あれから随分と時間が経っていた。
ゆっくりと起き上がり、額に浮かぶ汗を拭う。
下、降りるか。
泥のように重い体を立ち上がらせ、部屋を出た。
静まり返った家の中は、足音ひとつさえ・・・大きく響く気がして慎重に歩く。
明かりがついたリビングへ入ると、そこに人の姿はなく、俺が立ち去る時の惨状は跡形もなくキレイに片付けられていた。
まるで最初から何もなかったかの様に思わせるほどに。
「夢・・・だったら・・・」
そう言葉に出せば出すほど、夢ではない事が輪郭をハッキリとさせて行く。
キッチンカウンターに手を付き、息を吐いた所でリビングのドアが開けられ肩が跳ねた。
慧「・・・桜太か。驚かすなよ」
「驚いたのはこっちだよ・・・」
シャワーを浴びていたのか、濡れた髪をタオルで拭きながら、慧太がそこに佇んでいた。
慧「少しは?」
「あぁ・・・」
たったそれだけの言葉で、お互いに言いたい事が伝わる。
慧「そっか。ならいい」
「慧太、悪かったね・・・」
慧「いーや?状況が状況だ、仕方ねぇだろ。飯は?」
「今はあまり食べたくない。それより紡は・・・」
言いかけて、その先を聞くのが怖くて口を閉ざす。
慧「少し前に部屋に上がった。気になるなら・・・自分で見て来い?それから例の件、紡はニュース見て知ってるから。オレからは特に何も言ってねぇケド」
「そっか・・・ありがとう慧太。ちょっと様子を見てくる。部屋の明かりも気になるし」
そう言って俺は紡の部屋に向かい、1度ノックしてから静かにドアを開けた。
・・・寝てるか。
ベッドまで歩み寄り、毛布を掛け直す。
お気に入りのぬいぐるみを抱いて眠る紡の顔を見て、涙の後に気付く。
指先で軽く拭いながら、締め付けられる胸の痛みにギュッと瞼を閉じた。
紡、こんなにも弱いお兄ちゃんでゴメンな・・・
規則正しい呼吸を感じて、その寝顔の愛おしさに、また・・・苦しくなる。
眠っている紡を何度も撫で、心で何度も謝る。
紡が産まれる前に、サンタクロースと約束した事・・・忘れるところだったよ。