第8章 赤い糸の行き先 (及川 徹)
「岩泉がそうやって及川にゲンコツするのを見るのも、今日で見納めねぇ」
腕を組みながら言う姿に、オレは目を細めた。
「寂しい?」
「イヤ、全然」
「酷い・・・ちょっとは寂しがってくれてもよくない?!」
「私が何年養護教諭やってると思ってんのよ。毎年毎年、こうやって卒業生を送り出してんだからね?さ、元生徒は帰った帰った・・・あ、そうだ岩泉。帰る前に城戸ちゃん教室まで送ってって」
『えっ?!せ、先生?!』
岩「別に構わねぇけど。城戸、お前どっか悪いのか?」
『あ、いえ、別にどこも・・・』
「お熱があるのよ、お熱が・・・ね、城戸ちゃん?」
みくちゃんセンセーが言いながら天使ちゃんを見ると、瞬く間に顔が赤くなっていく。
岩「あぁ、そう言われてみりゃ、顔が赤いな。家じゃなくて教室でいいのか?なんなら、家まで送るぞ?近ぇし」
『・・・教室で大丈夫、です』
「じゃ、オレも一緒に行くよ!」
「及川はここで待ってなさい。さ、岩泉行って来て?及川は捕まえとくから」
岩「及川、俺が戻って来るまでそこにいろ。うろつくな。おすわり、マテ!」
「ワ、ワンッ!って、岩ちゃん?!」
思わず返事しちゃったじゃん!!
とりあえず行ってくると言い残して、岩ちゃんは天使ちゃんの背中に手を当てながら保健室を出て行った。
「オレも行きたかったのになぁ」
ポツリと零しながら、イスに腰掛ける。
「さってと、仕事仕事!」
「聞いてる?!」
パソコンを開きながら振り返り、聞いてない、とアッサリ切られる。
「オレの赤い糸、誰に繋がってるんだろう・・・」
「さぁねぇ~。2センチ位で切れてんじゃない?・・・って言うか及川。アンタ立ち聞きしてたでしょ?」
やべ・・・バレてる?!
「な、なんの事かな?」
「隠してもムダ!ほれ、あそこ見てみな?」
指さされた場所に目をやれば・・・
「あーっ!!足元の通気扉が開いてるっ?!」
って事は・・・?
「最初からいた事、バレバレよ?」
「マージーでー?!」
「でも、城戸ちゃんは全く気がついてなかったけどね?」
それだけがオレの救い・・・
「じゃあ聞くけどさ?オレの赤い糸って、紡ちゃんとは繋がってないのかなぁ?」
「だから言ったでしょ?2センチ位で切れてるって」