第8章 赤い糸の行き先 (及川 徹)
「切れてない!誰かと繋がってる!!」
「ウ・ソ!及川の赤い糸も、ちゃ~んと誰かと繋がってるよ。それが誰なのかは、分からないけどね?」
オレの・・・赤い糸。
小指を立てて、ジッと見つめてみる。
どれだけ目を凝らしても、オレにも赤い糸なんて見えては来ない。
岩「及川~、帰るぞ・・・何してんだお前?」
天使ちゃんを送った岩ちゃんが戻り、小指を見続けるオレに首を傾げた。
「岩ちゃん、オレの赤い糸って誰に繋がってると思う?」
岩「はぁ?知るかそんなモン。結び目から切れてんじゃねぇのか?」
結び目?!
「2センチより短い・・・」
「プッッ・・・」
パソコンを入力していたセンセーの背中が小刻みに揺れる。
「あ~もぅ!いいよいいよ!オレの赤い糸の先は自分で見つけるから!」
岩「そもそも切れてんだろ」
「岩ちゃん!!」
もう・・・オレだっていつか、誰かと赤い糸で結ばれるんだから!
「及川、岩泉、卒業して行くアンタ達2人に大事な事を教えてあげる」
そう言ってパソコンを伏せながら、イスから立ち上がってオレ達を交互に見る。
「人との出会いは大事。一瞬の出会いでさえ、何年、何十年経ってから思い出す事もある。その出会いが人生や運命を変える事もある。もし誰かと出会い、大切にしたいと思ったら・・・全てをかけて全力で愛しなさい。自分の・・・未来の為に・・・以上!」
全てをかけて、全力で・・・
「さ、健康そのものな2人は保健室から早く出なさい?ホラホラ!」
グイグイと背中を押されながら岩ちゃんとドアを出る。
「ほいっ!明るい未来に・・・行ってらっしゃい!!」
「痛ってぇ!!」
バシンッと背中を叩かれ、ドアを閉められる。
岩「やりやがったな・・・」
苦い顔をしてドアを振り返る岩ちゃんに、オレも苦い顔を見せた。
岩「さっきの・・・俺も誰かと、繋がってんのか?」
そう言って自分の小指を見る岩ちゃんに、オレの小指を絡めてみる。
「案外、オレと・・・だったりして?」
岩「・・・ぶった切る」
「何でだよっ!」
そう言って2人でふざけ合いながら、3年間過ごした校舎を後にした。
最後となる門を振り返りながら、校舎に小指を掲げてみる。
・・・願わくば、天使ちゃんと繋がってますように。
そう呟いても、赤い糸の先は・・・まだ、オレには見えなかった。