第8章 赤い糸の行き先 (及川 徹)
壁1枚挟んだ向こう側の言葉が、みくちゃんセンセーの言葉が・・・痛い。
「今すぐ駆け出して、当たって砕けてこいとは言わない。でもね?今のその気持ちを封じ込めてしまったら、前には進めないんじゃないかな?何事も諦めは肝心って言うけど、コレは別の話」
『先生、ありがとうございます・・・私、もう少し気持ちを温めて、今なら大丈夫!って思えた時、駆け出してみます・・・運命の赤い糸を、信じたい・・・』
「もし、その人が運命の赤い糸の相手じゃなかったら?」
『その時は・・・それでも、未来の誰かを探して前に進みます』
「よし!よく言った!偉い!」
天使ちゃん・・・
天使ちゃんの赤い糸・・・オレに繋がってると、思っても・・・いいかな?
なんて。
オレらしくもない淡い期待が胸を埋めていく。
頑張れ、オレ!
グッと手を握り、自分に喝を入れてから保健室のドアに手を掛けた。
「みっくちゃ~ん!!みんなのアイドル及川さんが最後のお別れに来たよ~?」
突然現れたオレの姿に、みくちゃんセンセーと紡ちゃんが目を丸くする。
「あ~・・・面倒なのが来たか」
「ちょっと~、面倒とか酷くな~い?」
「及川、アンタねぇ・・・最後の最後の最後の最後まで、面倒だわ・・・」
そんなに最後のって繰り返さなくてもよくない?!
「今日で卒業だからさ?最後にみくちゃんセンセーにギューッって・・・」
「あ~はいはい、ギューッ!」
「あたたたたたたっ!!鼻つまむのヤメテ!オレの鼻が取れる~!」
ピンッと離された鼻を押さえて、さり気なくチラリと天使ちゃんを見る。
「あれ?紡ちゃんじゃん?」
そう、さり気なく・・・ね。
『あ、お、及川先輩、卒業おめでとうございます!』
「うん、ありがとう。紡ちゃんに言われると、嬉しさも格別だよ」
数歩足を運び、天使ちゃんの前へと立ち・・・そっと肩を抱く。
「コラ及川、離れなさい」
みくちゃんセンセーの声も、オレ達の前では遥か遠くに聞こえる。
いま、この場所にはオレ達ふたりだけ。
今なら、言える。
今だからこそ、言いたい。
「紡ちゃん、オレと・・・」
言いかけて、窓ガラスに映る自分の姿が目に入る。
その姿は、制服はヨレヨレで、気崩れて、髪もセットが乱れていて・・・