第8章 赤い糸の行き先 (及川 徹)
『先輩とは・・・きっと運命の赤い糸が繋がっていなかったんじゃないかな?って、思うから』
「赤い、糸ねぇ・・・」
『もし繋がっているなら、こんなに弱い私でも、その糸の行き先が見えるのかな?って』
赤い糸・・・?
それを聞いて、オレは自分の小指を見つめてみる。
オレにも・・・誰かと繋がる赤い糸があるのなら。
その端っこは・・・誰と繋がっているんだろう。
願わくば・・・その糸の端は、天使ちゃんと・・・
『それに、今の関係が崩れて、距離が遠くなるのが怖いんです。そんな風に思ったら、1歩を踏み出す勇気がなくて・・・先輩は人気者なのに、こんなごく普通の私にさえも優しくしてくれて・・・でもそれはきっと、後輩だから優しくしてくれてるのに、私、多分・・・それに勘違いしてるのかも知れない』
「本当に、それでいいの?今日は卒業式なんだよ?明日からは、学校でも会えなくなっちゃうんだよ?」
卒業式で、明日からはいない?
それって、オレと同じ学年って事だよね?
天使ちゃんの想い人・・・
人気があって、優しくて・・・
天使ちゃんこそ、自分のことを分かってない。
オレ達の学年でも、天使ちゃんは季節を追うごとに注目されてた。
部内でだって、噂になってた。
もっと自信持ちなよ、天使ちゃん。
「あのね、城戸ちゃん?これは先生としてじゃなくて、これから先の・・・人生の師匠として、教えてあげる」
『師匠?ですか?』
「そう。運命の赤い糸っていうのはね、そんなに簡単に目に見える物じゃないし、直線で繋がってなんかいない。私だって、私の糸が誰に繋がってるのかさえ分からない。でもね、必ず誰かと繋がってるって信じてる」
みくちゃんセンセー・・・
「あなたの小指から始まった赤い糸は、どこかで絡まっていても、千切れそうになっても、必ず・・・誰かと繋がってるの」
『私の・・・赤い糸・・・』
「だけど、それを自分で手繰り寄せる事は出来ないの。自分から前に進んで、いろんなことを経験して、途中で絡まった糸を解きながら未来へ歩く。千切れそうなところがあっても、必ず誰かと繋がってるなら、絶対に千切れたりはしないはずよ?」
『でも、私・・・』
「遠回りしたっていいじゃない。時間がかかってもいいじゃない。目の前の小さな段差に躓いて進めないより、ずっとずっといいと思う」