第8章 赤い糸の行き先 (及川 徹)
『これくらい何ともないですよ?だって、そんなこと気にしてたらボール拾えないし・・・私の仕事は、ただひたすらボールを拾うことなのですから』
天使ちゃんの言葉に、オレは絶句した。
確かにリベロの仕事はボールを拾う事だ。
だけど、ここまでアザだらけだになっても胸を張ってそれが仕事だと笑えるなんて。
岩「それでもだ。練習あとの体のメンテナンスも大事な仕事だぞ」
『・・・はい、がんばります』
ポンッと天使ちゃんの頭に手を乗せながら言う岩ちゃんは、オレが見たことないような・・・何かちょっと、優しい顔をしていた。
・・・岩ちゃん?
じゃあ戻りますねと行って背中を向けた天使ちゃんの腕を思わず掴む。
『あの?』
「コールドスプレー、使って行きなよ?・・・国見!ちょっとスプレー持って来て!」
『でも、練習が・・・』
ー ちょっと及川ー!!うちの大事な1年に猛毒かけるのやめてくんない?! ー
猛毒?!
「粉かけるって言うなら分かるけどさ!猛毒って!!」
ー アンタが触ったら腐る!アホが移る!早く離して! ー
「酷い・・・」
岩「いや、正解だろ」
岩ちゃんまで?!
国見から受け取ったスプレーを手早く吹きかけ、ケガには気をつけなよ?と声をかけて女バレに送り返す。
「さぁ、オレ達も負けてられないよ!みんな練習に戻った!」
パンッとひとつ手を叩き、それまでの空気をかえる。
「さ!岩ちゃんも行こ・・・」
振り向きながら岩ちゃんに声をかけると、岩ちゃんはまだ、女バレの方を見ていた。
それから暫くして、オレ達の最後の・・・夏が終わり。
青城に推薦が決まってたオレと岩ちゃんは後輩指導で部活に顔を出し。
時々、天使ちゃんと影山や国見達が一緒に帰る輪の中に混ざる事も増えて、天使ちゃんとの距離も近付いて・・・オレが自分の想いに気が付いた頃。
・・・卒業式を迎えた。
オレの名前を呼ぶ艶やかな黄色い声をさり気なく優しくかき分けながら、1歩ずつ進み天使ちゃんの姿を探す。
学年委員で、卒業式の後片付けをしているはずだから・・・
体育館まで戻れば会えるはず・・・なのに!
後から後から湧いてくるようなカワイコちゃん達を無下には・・・
出来ない・・・出来ないんだよぅ!
「岩ちゃん、タスケテ・・・」
小さく助けを求めてみても。