第1章 〖 恋よりも、愛よりも 〗人気投票1位記念 城戸 桜太
何を言われるんだろう、と考えながら柵に寄りかかっていた体を、慧太の方へと向けた。
慧「今夜・・・夢の中で梓ちゃんを抱くなよ?」
「・・・はっ?!な、バ、馬鹿なこと言ってんなよ!!だいたい慧太はいつもそんな事ばっ・・・熱っ!」
慧「医者が火傷すんなよ~?んじゃ、ごゆっくり~」
「ちょっ、待て慧太!!」
捕まえようと手を伸ばすもスルリとかわされ、慧太はそのままリビングへと戻って行った。
まったく・・・慧太のヤツ。
最後にとんでもない爆弾落としてくれたな。
煙と一緒に、大きなため息も吐いた。
『桜太にぃ?ご飯・・・出来てるけど・・・もう来る?』
リビングからひょこっと姿を出し、紡が俺を呼んだ。
「ありがとう、紡。今行くよ」
『早く来てね?じゃないと慧太にぃが・・・あーっ!またっ!勝手に食べないでよ慧太にぃ!!』
束ねた長い髪を踊らせながら、紡がリビングへと戻る。
慧太・・・ホントにお前は。
「2人とも!食べ物あるのにバタバタしない!!」
お子様が2人もいたら、感傷に浸る暇もないな・・・
翌日から俺は、忙しい日々を送っていた。
いや、正確には。
わざと忙しくして、梓の事を出来るだけ考える時間を作らないようにしていた。
梓は現実を受け入れ前を向いたのに・・・
俺はその現実をなかなか受け入れられずに過ごしていた。
医学書を開いては調べ物をしたり。
移植手術に詳しい先生に話を聞いても。
いま俺が出来ることは、何もなかった。
それから少し経って、紡が入学式の直前に髪を切りたいだとか、カラーリングしたいだとか言い出して。
・・・結果、慧太が折れて紡の希望通りになる訳だけど。
紡の入学式を過ぎた頃には、俺も何となく梓の事を思い出す事が薄れていた。
・・・そんな、ある日。
いつもの様に家事当番の為、キッチンにひとりでいると慧太がリビングから急に大声で俺を呼んだ。
慧「桜太!今すぐこっち来い!早く!!」
「いま手が話せないから、用事ならここで聞くよ」
慧「そんなモンいいから早く!梓ちゃんが・・・」
慧太の慌てる様な叫びに、俺は作り途中のドレッシングが入ったボウルを持ったまま移動した。