第8章 赤い糸の行き先 (及川 徹)
「その心配は必要なし!見て?オレは今、保健室の帰り。で、授業に遅れても何の問題もなし!って事で、行こうか?」
『えっ、あ、あの?!』
戸惑うその子の背中に手を当て歩き出す。
小柄でカワイイ子だなぁ。
こんな子が1年生にいたなんて、全然知らなかったよ。
「そう言えばさぁ、名前、聞いてなかったね」
いつもの感じでサラリと名前を聞き出そうと話しかける。
『あ、そうでした!えと、城戸って言います』
予想外の返答に思わず笑いが漏れた。
「オレが知りたいのは名前だよ、名前!今のは名札見たら分かるって」
『あ・・・』
オレの言葉でそれに気付いたのか、顔を真っ赤にして目を泳がせた。
「で?名札に書いてない方の名前、教えてくれるかな?」
『・・・、です』
えっ?!
「?・・・か、変わった名前だね・・・」
うっすら耳に届くカタコトのような言葉にどうコメントしていいのか分からず、何となく愛想笑いを見せた。
『ち、違います紡です!城戸紡っていいます!』
「だ、だよね!そうだよね!紡ちゃんって言うのか!可愛い名前じゃん?ちなみにオレは、」
『知ってます・・・男子バレー部3年の、及川先輩・・・』
おおっ!!
オレってやっぱりそんなに有名人?!
イケメンって得だなぁ!
お母さん・・・オレをイケメンに産んでくれてありがとう!
「こんなに可愛い後輩ちゃんに名前を知られてるとか、光栄だよ」
キラリと微笑み、階段の踊り場であるのをいい事に壁際に擦り寄る。
『あの、及川先輩?・・・なんか距離が、近い・・・ですよ?』
「ん~・・・、紡ちゃんが可愛いから、つい引き寄せられちゃった」
『あは、は・・・あの、音楽室・・・』
そうだった!
今は音楽室に案内するのが最優先!
とりあえず名前は聞いたし、授業遅れたらかわいそうだからね!
「じゃ、紡ちゃん?案内するから、ね?」
『・・・お願いします』
手荷物は全部オレが持ち、代わりに小さな手を繋ぐ。
紡ちゃんは恥ずかしがっていたけど、それも可愛くて仕方ない。
岩ちゃん・・・オレを強制的に保健室へと送り出してくれてありがとう!!
みくちゃん先生!保健室から早々と追い出してくれてありがとう!!