第8章 赤い糸の行き先 (及川 徹)
「何言ってんだか。だって今時にしては珍しい硬派な男の子だし。あんな子が彼氏とかだったら、きっと凄く大事にしてくれるわよ?」
「硬派・・・ねぇ」
椅子から立ち上がり、オレの手を見て湿布を貼りながら言ったみくちゃんセンセーの言葉を、何となく口に出してみる。
「及川君も見習っときなさい?チャラチャラしてるのもいいけど、いつか及川君の前に天使が現れた時に後悔するわよ?大人になった時とかね」
天使?
いや、それは今オレの目の前にいるんですけど?
あ、でもどっちかって言えば・・・
エロ小悪魔・・・の方がピッタリ?
「みくちゃんセンセーが、オレをオトナにはしてくれないの?」
「そういうの間に合ってまーす!はい、出来た。予備の湿布とテーピングそのままあげとくから、はい、帰った帰った」
言いながらオレの背中に手を当て、保健室から押し出す様にして廊下へ出された。
「チャイムがなる前に教室行きなさいね?」
そう言ってドアを閉め、ガチャリと鍵の音を鳴らす。
鍵まで閉めるとか、そんなにオレがウザかった?!
ちぇっ・・・と、小さく呟いて。
はぁ・・・とため息をついて、授業前でザワザワしている廊下を歩き出す。
あれ?
遠目に見ても、おかしな動きをする女の子が見えた。
キョロキョロしながらあっちへ行ったり、こっちへ来たりしている、小さな女の子。
上履きのラインを見て、1年生だとわかった。
まさかの迷子?なんて思ったから、オレは駆け寄り声をかけた。
「ねぇキミ?さっきから挙動不審だけど・・・もしかして迷ってる?」
その子は声をかけられたことに驚きながらも振り向いた。
『はい・・・。移動教室なんですけど、第2音楽室がわからなくなってしまって・・・』
滑り落ちそうになる教材を抱え直しながら、その子はそう言った。
「え?第2音楽室?そもそもソコ、隣の校舎だよ?」
『そうだったんですか?!・・・隣の校舎・・・』
オレが言うと、その子は途端に慌てだした。
『教えてくれてありがとうございます!では・・・』
そう言って、今にも駆け出して行きそうなのを呼び止め、抱えていた教材をその子の手から受け取る。
「ついでだから、連れてってあげるよ。」
『でも・・・それだと先輩が授業に遅れちゃう・・・』
・・・カワイイ。
純粋に、そう思った。