第7章 〖 肌の記憶 〗 人気投票3位記念 城戸 慧太
えへへ~と笑う紡のオデコをつついて、しょうがねぇなぁと店に足を踏み入れる。
桜太にはしょっちゅう言ってる大好きも、オレには極々たまにしか言わねぇから、ちょっとだけ照れるんだよ・・・
ちょっとだけな、ちょっとだけ・・・
オレ、普段から意地悪に構うから、どっちかってぇと、慧太にぃ嫌い!の方が多いからな・・・
会計を済ませ、ラッピングされた巨大なパンダを抱えて紡が歩く。
右に左にフラフラしながらの姿は、危なっかしくて仕方ねぇ。
・・・で、結局。
「お前・・・約束が違うだろ・・・」
『だって・・・』
「だって、じゃねぇよ・・・」
歩くのに前が見えずに危ないからと、紡はオレに巨大なパンダを押し付けた。
「オレがこんなん持ち歩いてたら目立つ事この上ねぇだろが!」
『パンダちゃん、かわいいよ?』
「だーかーらー!オレが可愛くしてどーすんだってーの!」
『桜太にぃだったら、普通に持ってくれるのに・・・』
・・・それを言われると、オレはもう反論できねぇだろうがよ。
そして、ショップ店員さんよ・・・
せめてシースルーなラッピングと、大きなリボンは・・・やめて欲しかったぜ・・・
「桜太の所に行ったら、先に車に置いてこい」
『えぇ~、何でぇ?』
「・・・何でもだ!」
すれ違うヤツらの、視線が痛い・・・
そりゃ当然だろうな・・・タッパ180もある男が、こんなプリティなパンダを抱えてんだからよ。
『あっ!桜太にぃだ!・・・桜太にぃ~!!』
桜太を見つけた紡が、はしゃぎながら駆け出した。
「あっ、コラ!待て待て待て!こんな状態のオレをひとり置き去りにすんな!!」
紡の後を慌てて追いかける。
『慧太にぃ早く早く!』
既に桜太の所に辿り着いた紡が、手招きをしながらオレを呼んだ。
アイツ・・・タダでさえ手荷物持ってやってんのに、その上この巨大なパンダだぞ?
手ブラで身軽なお前とは違うんだってぇの。
ガサガサと音を立てながらパンダを抱えて走ると、それを見た桜太が笑いを堪えてるのがわかる。
「おいコラ紡・・・何から何までオレに持たせやがって・・・」
『だって慧太にぃが持ってくれるって言ったから』
「それは先に買い物してた方だろ!」