第7章 〖 肌の記憶 〗 人気投票3位記念 城戸 慧太
2本買えればよかったけど、急に降り出した雪で傘は1本だけしかなかった。
ま、こんな日に妹と相合傘ってのも悪くはねぇし。
・・・アイツが嫌がらなければ、の話だけどな。
紡のいる場所へ向かうと、ちょうど軒先に姿を見つけて声をかけた。
・・・一緒にいるのは、誰だ?
その疑問はスグに溶け、相手とも挨拶を交わしそのまま別れた。
別れ際に紡の頬をひと撫でしてったのは、ちょっと気に入らねぇな。
「・・・おい、紡」
『ん?』
「今の、今の最後のは何なんだ?もしかして、お前の彼氏、」
『違う違う!断じて違う!神に誓っても違います!及川先輩は女の子にはみんなそうするんだよ』
神に誓っての即答かよ!哀れな男だな。
『慧太にぃ、そろそろ行こう?桜太にぃが待ってるかもだよ?』
「お?あ、そうだな。遅れると桜太ウルセーしな」
ひとつの傘を差し、紡が濡れないように傘を傾ける。
『折角のホワイトクリスマスなのに・・・まさかの慧太にぃと相合傘とか・・・』
「バカタレ、それはお互い様だろ」
『そうだよね、彼女とかいたら慧太にぃは家族で食事とかないもんね~』
「お前、オレにケンカ売ってんのか?売るなら買うぞ?」
甘くも何ともない会話をしながら、街に甘さを引き立てる雪の中を歩く。
こんな時間のひとつも、オレにとっては極上の時間だ。
『あっ、かわいい・・・』
不意に足を止める紡につられて、オレも足を止めた。
紡の目線の先には・・・ふわふわとした巨大なパンダの・・・ぬいぐるみ・・・
あ、なんか嫌な予感が・・・
「まさか、と思うけどよ?」
『・・・ダメ?』
・・・・・・・・・やっぱり来たか。
「ダメじゃねぇけど、お前あんなん持ってたら歩けんのか?お前と同じくらいあるんじゃね?」
『私あんなに小さくないよ!!』
いや、どう見てもあのパンダ・・・1メートルくらいあるだろ。
『ちゃんと自分で持つから!ね?慧太にぃ、お願い!』
「・・・絶対だぞ?オレは持ってやらねぇからな・・・」
オレも桜太も、この小さな姫さんの・・・たまにしか言わないお願い攻撃には滅法弱い。
『やったぁ!ありがとう慧太にぃ!大好き!』
「お前、こういう時だけ大好き言うなよ・・・」