第7章 〖 肌の記憶 〗 人気投票3位記念 城戸 慧太
ー 慧太さん、お疲れ様でした ー
「ホントだよ」
ー お綺麗な女性でしたね・・・もしかして慧太さんの・・・元カノ、とか? ー
落としたてのコーヒーを差し出しながら、アシスタントがオレの顔を覗く。
「アホか、昔の知り合いだ。今度結婚するからイメチェンしたかったんだとよ」
受け取ったカップに口を付けながら、そう答える。
ー 結構必死に慧太さんを指名してたから、てっきり・・・ ー
「あのねぇ、オレは人妻に手を出すほどオンナに困ってねぇの。今は手のかかる溺愛中のオンナがいるからな」
軽くそう突っ込むと、アシスタントも
あぁ・・・と頷いた。
ー 紡ちゃん、ですね?可愛いもんなぁ、紡ちゃん・・・フリーだったら立候補しちゃいたいくらい! ー
おい・・・それは聞き逃せねぇセリフだな。
「言っとくけどな、立候補するのは勝手だけどよ、オレを倒してからじゃねぇと許可は降りねぇからな。更に言えば、オレの後には恐ろしい強さのラスボスがいるからな?」
ニヤリと笑って、飲みかけのカップを押し付ける。
ー なんスかその正義のヒーローみたいなヤツは・・・ ー
「いーのいーの、オレはいつでも紡の為なら正義のヒーローになれるんだよ」
ー 慧太さん、中二病っぽいッスよソレ・・・ ー
「お前なぁ、1回シメんぞ?」
ー あはは、謹んでご遠慮します・・・あ、結構降り出しましたね、雪 ー
事務所の窓から外を見て、アシスタントがホワイトクリスマスだ・・・なんて騒ぎだす。
そういやアイツ、家出るとき傘なんか持ってなかったよな?
ロッカーを開けてスマホを出し、紡に電話をかけてみると、意外と近場にいる事がわかった。
オレが迎えに行くまで待ってろとは言ったが・・・アイツ、ちょこまかするからなぁ。
また近くなったら連絡すりゃいいか、と考えながらシザーケースを外しロッカーの中へかけた。
「んじゃ、オレは愛しのオンナと待ち合わせだから行くぞ?今度は電話して邪魔すんじゃねぇぞ?」
ー わかってますよ!今日はホントにお疲れ様でした。あ、それから紡ちゃんにシクヨロで~す! ー
コイツ・・・マジで1回シメる必要があるな・・・
店を出て、向かいのコンビニで大きめのビニール傘を1本買い、それを差しながら歩く。