第7章 〖 肌の記憶 〗 人気投票3位記念 城戸 慧太
オレの名前を呼ぶ黄色い歓声を耳にして、深月は目を細めた。
「学生さん?随分と、人気者なのね?」
「まぁな。オレはいつでもモテモテなのよ・・・ってキメたいところだけどよ、アイツらはうちの客だ」
薄く笑いながら手を振ってやると、更にまた黄色い歓声を上げた。
「あんな若い子と火遊びしちゃ、ダメよ?」
「へぇ・・・あ~んな若い子と、火遊びしてたのは・・・誰だっけ?」
「さぁ、誰かしら?」
「やれやれ・・・」
あからさまにため息をつくと、深月は過去は振り向かないいオンナなの、と笑った。
「慧太、私ね・・・再婚が決まってるの」
「そりゃ、おめでとう・・・か?」
「だから、またこの街を離れる。ここには甘い思い出と、苦い思い出が詰まってるけど・・・いつかまた戻って来たら、会いに来てもいい?」
もちろん、という言葉の代わりに深月の頭に手を乗せた。
「そうだ、コレやるよ」
付けたままのシザーケースのポケットから、店の名刺を1枚渡す。
「うちはメンズラインもやってるから、次来る時は・・・どうぞご夫婦で。指名はもちろん、城戸でお願いします」
「商売上手ね~・・・じゃ、本格的に降る前に・・・行くね?」
あぁ、と軽く返事をして、
歩道に続く階段を降りていく深月の背中を見送った。
「・・・深月!」
最後の1段を降りたところで、その背中に声をかけると、深月は弾かれるようにオレを振り返った。
「今度こそ、永遠の愛を誓えよ?」
「うっわぁ・・・キザ臭~い」
「うるせぇよ、バーカ」
オレの言葉に深月が笑う。
「もちろん、誓うに決まってるでしょ!慧太こそ、真っ直ぐな愛を見つけなさいよ?」
イタズラに笑いながら、深月が反撃をしてくる。
「残念ながら、オレには溺愛中のオンナがいるんだよ。どれだけ愛情を注ぎ込んでも、後悔しない大事なオンナがね」
「あらま、ごちそうさま」
じゃあねと言って手を振る深月に、オレも小さく手を振り返す。
オレはいま、手がかかって大変な極上のオンナで手がいっぱいなんだよ。
わがままで、すぐ泣くし、すぐ怒るし、すぐ拗ねるし・・・
そんな小さな姫さんの事で、毎日忙しい。
そんな事を考えながら店の中へと戻る。