第7章 〖 肌の記憶 〗 人気投票3位記念 城戸 慧太
「はいっ、でっきあっがりィ~。ん~、可愛い可愛い!」
合わせ鏡をして、髪型の全体図を見せてやる。
普段から背中の中ほどまで伸ばしてるロングストレートの髪は、ふわっふわに巻いてセットしてやった。
オレが思うのもなんだけど、彼女も作らずここまで妹に尽くす兄というのも・・・なんだろな。
「よし、元気に行ってこい!晩飯は桜太が店を予約してっから、美味いモン食えるぞ?」
玄関まで見送り、ポンッと頭に手を乗せる。
「いいか?ちゃんと前見て歩けよ?知らない人にはついて行くなよ?」
『ちょっと!私そこまで子供じゃないんだけど!・・・行ってきます!』
ほんと紡は構うと面白ぇ反応するよな。
さてと、オレは時間までゴロゴロ過ごすかね。
自室に戻り、ベッドに転がると置きっ放しのスマホに着信が残っていた。
・・・店から?
ま、用があったらその内またかけてくるだろ。
そう思ってスマホを放り出したのと同時に、着信音が鳴り響く。
今かよ!
「はい、城戸です・・・」
ー あっ!慧太さんやっと出た!お休みのところすみません! ー
全くだぜ。
「で、何度もかけてくる用件は?」
ー あ・・・それなんですが・・・慧太さんに指名が入ってまして・・・ ー
「は?オレは有給消化で休みだろ?なんで指名なんか入れてんだよ」
確かにこの時期に有給とか、かなりの無理言って入れたけどよ。
ー それが・・・どうしてもっていうお客様でして。俺も今日は慧太さんは休みだからって説明したんスけど、根負けしたっていうか・・・連絡取ってみますって言っちゃって・・・ ー
アホか!そこは押し通せよ!
「だぁぁぁ!仕方ねぇな!その客ひとりだけだぞ!今夜はオレのカラダは予約入ってんだからな!」
ー っ、はい!ありがとうございます!今から車で迎えに行かせます!じゃ! ー
オレの手元には、虚しくも先に通話を切られたスマホが、ツーッ、ツーッと小さく音を鳴らしていた。
あンのバカたれ・・・今度昼飯奢らせてやる。
頭ん中を軽く仕事モードに切り替え、身支度をしているうちに迎えに来た車に乗って店に着いた。
ー 慧太さん!ホントにスンマセン!今度飯奢ります! ー
「当然だってーの」
ー アイタッ ー
そう言って1発デコピンを食らわせてから渋々ながら事務所へと入る。