第7章 〖 肌の記憶 〗 人気投票3位記念 城戸 慧太
「わかったわかった。パフェも食え」
『やったぁ!けぃちゃん大好き!!・・・チューーっ!!』
大喜びでオレにほっぺたチューをかましてくる紡で、ザクリと刺さっていた棘が、ゆっくり溶けていく。
「あ~、先に言っとくけどな紡。ちゃんと飯食ってからじゃないと、パフェは注文してやらねぇからな?」
オレが言うと、ベッタリくっ付いていた体を離し、紡は微妙な表情を見せた。
「なんだよその顔は」
『せっかくチューしたのに、損した気がする!』
「・・・お前ねぇ」
オレは桜太どころか、イチゴパフェにも勝てねぇの?
ま、いいやと言って、すぐ出掛けられるように支度しとけよ~と声をかけ、オレは自分も着替える為に部屋へと向かう。
ファミレス行くだけだから、こんなモンで・・・っと。
サクッと着替えを済ませ、リビングへと戻る。
『けぃちゃん・・・どうしよう。おぅちゃんいないから、髪の毛出来ないの・・・』
ブラシといかにも子供が好きそうな髪ゴムを手に持ちながら、紡
がウルウルした目でオレを見上げた。
「そんなのオレが・・・」
言いかけて、ホントにオレが結ってもいいんだろうかと・・・自分の手を見つめる。
深月とは、さっき終わりにしたんだ。
見えない泥に塗れた手は、もう、汚れる事はない。
だったら・・・いいよな、桜太?
『けぃちゃん・・・』
「うっし!オレがやってやるからイスに座れ」
『えっ?!けぃちゃんがやってくれるの?!』
「あぁ。今日から毎日、結んでやるよ」
やったぁ!と跳ねながら、紡はイスへとよじ登る。
それを見てオレは、ネットで検索しながら編み込みを入れたり、毛先を捻ったりして紡の髪を結い上げてやった。
『わー!!すごーい!つーちゃんじゃないみたーい!』
「お気に召しましたでしょうか、お客様?」
紡の嬉しそうな顔が、胸に染みた。
『慧太にぃ?私の髪、焦げる・・・』
「あ?あ、あぁ、悪ぃ悪ぃ」
なんで急に・・・アイツの事なんて思い出したんだろうな。
アレから何年経ってると思ってんだ。
懐かしんで思い出す様な美しの恋物語でもねぇってんだ。
それなのに急に思い出してるとか、いよいよオレはじいさんの仲間入りか?