第7章 〖 肌の記憶 〗 人気投票3位記念 城戸 慧太
再び歩き出したと同時にスマホが鳴り出す。
まさか・・・
弾かれるようにポケットからソレを取り出し、着信相手を見た。
こんな時に、お前かよ。
諦める事なく鳴り続く音に、ため息をひとつ吐いてから電話に出る。
「ハイハイ、なんの用だ?」
「あ、慧太君?用事ってもう終わった?もし終わったならさ、これから一緒にお茶でもどうかな?って」
・・・桜太の差し金だな、こりゃ。
バレバレだっつーの。
「慧太君、聞こえてますかー?おーい?」
「うっせーなチビ助!ちゃんと聞こえてるっての。ジジィかオレは!」
「だって慧太君、返事してくれないんだもん!」
もん!じゃねぇっつーの・・・
「生憎オレはお忙しいの、わかる?お取り込み中に電話してくんじゃねーよ・・・ったく」
「お取り・・・込み、中?・・・バッ、バカッ!変態!慧太君のエッチ!」
それだけ言って、一方的に通話が切れた。
おいおい・・・何を勘違いしてんだ、あのチビ助。
オレはお取り込み中って言っただけだろうがよ。
しかも変態ってなんだよ、変態って。
今度いっぺんシメとくか?
でも、電話掛けてきたのが梓ちゃんでよかった。
その勘違いが、いまは助かってる。
さてと、帰りますかね。
フラフラと自由人を演じていても、オレの帰る場所は・・・ひとつだけだ。
桜太と一緒に焦がれた、姫さんの待つ・・・オレ達の、城。
やっと、お前を正々堂々と抱きしめてやれる。
桜太には軽くメッセージだけ送って、オレは、オレの・・・あ、いや。
オレと桜太の姫さんが待つ城へと急ぎ帰った。
「お、いたな?ただいま、紡。なんだ1人か?」
リビングのドアを開けると、テーブルで宿題をやる紡の姿が目に入る。
『けぃちゃん!おかえりなさい!』
ピョンっと椅子から降りて駆け寄り、オレに抱き着く小さい姿。
いつもなら、これだけで部屋に戻るけど。
今日からは違う。
カバンをソファーに放り出し、その小さな体を抱き上げる。
「1人でお留守番出来て偉いな。今日は父さんも母さんも帰れないって言ってたから、オレと飯食いに行くか?」
『ホントに?!つーちゃんパへ食べたい!イチゴのいっぱいのやつ!』
「飯だって言ってんだろが」
『・・・イチゴのいっぱいのパへ』