第7章 〖 肌の記憶 〗 人気投票3位記念 城戸 慧太
オレは一緒にいる男に気付かれないようにポケットから鍵を取り出し手のひらに乗せて見せた。
「鍵・・・落としましたよ・・・」
その鍵を見て、深月の瞳が大きく揺れる。
そりゃ・・・そうだろ・・・
この鍵は、深月の住む・・・家の鍵だ。
「どうぞ?」
受け取ろうと手を伸ばさない深月に向けて、鍵を乗せたまま手のひらを差し出す。
差し出された鍵が、何を意味しているのか・・・分からねぇほど、子供じゃ・・・ねぇよな?
「いつ・・・落ちたのかな・・・」
深月が、震える指で・・・オレの手のひらから鍵をつまみ上げる。
「あり、がとう・・・」
ありがとう、か。
ザクリと胸に刺さる大きな棘に、膝が崩れそうになるのを耐える。
「どういたしまして。じゃ・・・サヨナラ」
しっかりと深月の顔を見て、なるべく笑顔で・・・他人が聞いたら、それはごく当たり前の・・・
でも、オレ達には・・・最初で最後の、サヨナラを告げた。
それを聞いた深月は一瞬目を見開き、またも大きく瞳を揺らす。
オレはそれに気付かないフリをして、背中を向けて歩き出した。
まだだ・・・
まだ、ダメだ・・・
まだ・・・
いや・・・今なら・・・
重い足を止め、ゆっくりと振り返る。
オレの目に映ったのは・・・しっかりと肩を抱かれながら、コドモには到底入る事の出来ない・・・オトナのネオン街へと吸い込まれて行く深月の、最後の後ろ姿・・・
やっぱり、そういう事かよ・・・
息苦しさを誤魔化すように、大きく息を吐き、また、歩き出した。
他にもオトコがいたなんて、想像もしてなかったっての。
いや、そうじゃねぇ。
アイツの旦那からしたら、オレこそ、そうだろ。
結局、つまみ食いのままで終わったのは・・・オレじゃねぇか。
遊ぶ相手が何人もいるクセに、オレみたいなガキに溺れやがって。
ホント、しょうがねぇオンナ・・・
・・・違うな。
遊ばれてるって分かっていながら、どっぷりハマってたのは・・・オレの方だ。
しょうがねぇのは・・・アイツじゃなくて・・・
オレ、なんだ。
ハハッ・・・アホだな、オレは。
今更ながら、桜太と梓ちゃんの小言が染みてくる。
・・・帰るか。