第1章 〖 恋よりも、愛よりも 〗人気投票1位記念 城戸 桜太
慧「オッケ。んじゃまぁ、桜太はとりあえずシャワーでも浴びて来い?コッチはオレが何とかしてやるから、さ?」
「・・・今回ばかりは、借りとくよ」
慧「10倍にして返せよ?」
ドヤ顔で言われて、10倍かよと笑って返す。
頼むね?という言葉の代わりに慧太の肩をたたき、俺はシャワールームへと向かった。
着替えたばかりの服を脱ぎ、ふと、脇腹の傷跡をなぞる。
この傷は・・・家族以外は、梓しか知らない。
この先は俺にも、どこで誰と出会うかなんて分からない。
だけど・・・
今は、この傷跡を知る人物は・・・梓だけでいいと思ってる。
それだけ俺は、まだ梓を・・・
ふぅ・・・と息を吐き、シャワーを浴びる。
紡が言う、梓の香りは、シャワーで洗い流されてしまうだろう。
でも、あの時梓を抱きしめた感触は、俺は忘れないから。
流れて行く泡を眺め、何度も何度も梓の幸せを願った。
手術が無事成功して、いつか子供が産まれたら・・・
その時は紡と慧太を連れて、お祝いに駆け付けよう。
そんな事も、思いながら。
シャワーから出ると、階段の上から慧太の声が聞こえた。
慧「だーかーら!桜太が違うって言ってんだからよー。お前も意地張ってんじゃねぇよ?」
なかなかの長期戦だな。
やっぱり、俺が・・・
そう思い、階段下から慧太に声をかけようとすると、手のひらをヒラヒラさせて来るなと合図をされる。
慧「あれ?桜太、こんな時間から出かけんのか?」
「えっ?!」
いや、その予定はないけど?
何を言ってるんだと、もう1度顔を覗かせると、慧太は指を立て静かにしろと見せる。
慧「あ~、まぁ、それはしょうがねぇよなぁ。紡が飯作ってくれねぇからなぁ。何だったらイイ女がいる店を紹介するぜ?こ~んな意地張って拗ねまくってるアホな妹の相手ばかりじゃ息が詰まるだろ?な?」
慧太は面白いイタズラを思いついたようにニヤリと笑う。
慧「紡、桜太もう飯いらねぇってさ。じゃ、オレは桜太に地図書くから下行くからなー?」
慧太はわざとらしく、よっこらしょと言いながら腰を上げた。
『そんなお店教えたらヤダ!!』
勢いよくドアが開き紡が出て来た。