第5章 〖 繋いだ指先の行方 〗 人気投票2位記念 岩泉 一
いつしか俺も及川も、あの公園には行かなくなってチビ子の事を少しずつ忘れていた。
及「岩ちゃん、岩ちゃんってば!なに1人で黙り込んじゃってんのさ!」
『ハジメ先輩、どうしたんですか?』
及川と紡の呼び掛けで、思い出の中から現実に引き戻される。
「・・・何でもねぇよ」
チビ子、今頃はどこで何してんだろうか。
相変わらず、小せぇままなのか?
それとも、スゲー美人になってるとか?
女って、分かんねぇからな。
ふとそんな事を思って、口元が緩む。
及「岩ちゃんヤラシー!思い出し笑いでニヤついてる、痛ッ!岩ちゃんゲンコツやめてって言ってるのに!」
「黙れボケ川!」
ー お兄ちゃん、ボケかわって名前なの? ー
チビ子と重なる小さな子が、及川に向かってそう笑った。
『違うよ?及川先輩って言うんだよ?』
ー おいかわせんぱいって、名前なの? ー
首を傾げて、もう1度そう言った。
『そっか!先輩って意味がまだ分からないよね?・・・えっーと、ねぇ。このお兄ちゃんは・・・徹君で、こっちのお兄ちゃんは・・・はじ・・・』
「紡、はじめくん、とか言うなよ?」
そんな呼ばれ方なんか、慣れちゃいねぇからな。
小さく釘を刺すと、紡はう~んと唸りながら、あっ、と声を出した。
『こっちのお兄ちゃんは、名前から一文字取って、はっくん!ってのはどう?』
・・・はっくん?!
ー とーるくんと、はっくん?うん、わかった!そう呼ぶ~!お姉ちゃんは?紡ちゃんだから、つーちゃん? ー
・・・つーちゃん?!
『あはは!つーちゃんとか、懐かしいなぁ・・・いいよ、そう呼んで?』
懐かしい?
あれ?
そういや、紡って・・・兄貴いたよな?
確か・・・双子の。
いや、そんなはずは・・・ない、よな?
い、いや?
だってチビ子は・・・チビ子だったぞ?!
あの頃の俺達より、ずっとずっと小さかったぞ?!
あれから何年経ってんだ?
せいぜい、小学生か・・・中学生くらい、だろ?
・・・待てよ?
紡・・・いま、中学生・・・じゃねぇか。
つーちゃんと、とーるくんと、は・・・はっくん?
単なる偶然なのか?
それとも、もしかして・・・?
・・・それは多分、ないな。