第5章 〖 繋いだ指先の行方 〗 人気投票2位記念 岩泉 一
『パパとママが、新しいお家ができたからって。今度のお家は、ここの公園からは遠くなるって。だから、今日が最後だよって』
ポロポロと泣きながら、チビ子が俺にしがみついた。
及「つーちゃんちゃんが引っ越したら、寂しくなるね・・・」
及川の言葉で、チビ子は大声を上げながらわんわんと泣き出した。
「及川!余計なこと言うなよ!」
そう言いながら及川に軽くケリをいれ、チビ子をギュッと抱きしめた。
「チビ子、お前は俺のお嫁さんになるんだろ?だから、大人になったら・・・きっといつかまた会える。約束だ!だから泣くな!」
『・・・うん・・・わかった。もう泣かない』
そう言いながらもポロポロと涙を流すチビ子の頭を、俺はおぅちゃんが迎えに来るまで、ずっとなで続けていた。
夕方になって、おぅちゃんが迎えに来て。
いつものようにチビ子と手を繋いで帰って行く。
俺と及川は、公園の入口まで一緒に歩いて・・・何度も何度も振り返っては大きく手を振るチビ子を、見えなくなるまで見送った。
・・・いつかまた会える。
そう言ったのは、俺なのに。
いつか・・・って、いつなんだろう。
そう思うと、鼻の奥がツーンと痛くなって、俺は空を見上げた。
そっか・・・
俺は、小さくて、舌っ足らずな喋り方のチビ子が・・・いつの間にかに、好きだったんだ・・・
及「岩ちゃん、オレ達も帰ろっか?」
「あぁ、そうだな・・・」
及川と帰りながら、何気なく自分の手を見る。
この手に繋ぐ小さな手は、明日からはいないんだと思って・・・
何度も振り返ってしまった。
及「岩ちゃん・・・オレでよかったら、手、繋ぐ?」
黙って歩く俺を見て、及川がちょっと笑いながらそんな事を言った。
「繋ぐかボゲェ!アホじゃねぇの?!そうだ!今日からお前はボケ川って呼んでやる!」
及「岩ちゃんヒドーイ!オレは岩ちゃんが泣きそうな顔してるから言ったのに!!」
「余計なお世話だボケ川!」
及「あーっ!ボケ川ってホントに呼んだ!!」
「うるせーボケ川!黙れ!」
家に着くまでそんな事を言い続け、俺達は別れた。
その日は、心の中がグチャグチャで・・・
母ちゃんが作った揚出し豆腐も、半分残した。
俺の・・・大好物のはずなのに。
そんな事があっても、夏休みが終わり、運動会が終わり、クリスマスが来て・・・