第5章 〖 繋いだ指先の行方 〗 人気投票2位記念 岩泉 一
及川に言われ、そこで初めて足を止めて前を凝視する。
あれは・・・チビ子かっ?!
隣にいるのは誰だよ!
どう見ても、おぅちゃんじゃない!
「なんかヤバイぞ及川!急げ!」
来た時よりも力いっぱい地面を蹴って走った。
「チビ子!!」
及「つーちゃん!!」
俺達の呼びかけに、チビ子が振り向いた。
『はっくんと、とーるおにいちゃん・・・』
舌っ足らずに俺達を呼んで、チビ子は隣のヤツを見上げた。
ー 早く行くよ。パパが待ってるからね ー
チビ子が小さく頷いて、また歩きだそうとする。
「チビ子!どこ行くんだ?!」
理由なんて分からない。
でも、なぜか行かせたらダメだと思えてチビ子の腕を掴んだ。
『はっくん、あのね。パパが怪我しちゃったから、これから病院行くんだって』
病院?
チビ子の父ちゃんは、医者じゃなかったか?
「チビ子、この人は・・・誰だ。お前の知ってるヤツか?!」
『知らない人。でも、パパと同じ所で働いてるんだって』
マジでヤバイやつじゃないのか?!
及「そっか、パパが怪我しちゃったなら早く行かないと行けないね」
「及川!」
及「でも・・・オジサン?この子のパパの会社の名前、言ってみてよ?同じ会社の人なら言えるよね?」
及川の問いかけに、口ごもる。
及「ねぇ?なんで言えないの?・・・もしかして、知らないんでしょ?」
ー チッ! ー
「危ねぇっ」
及川に詰め寄られて、逃げるためにチビ子を突き飛ばした。
そのまま走り去ろうとするヤツに俺は足を伸ばして引っ掛ける。
「逃がすかオッサン!!」
大げさなくらいの勢いで転がり、俺達を睨みながら立ち上がった。
ー こンの、クソガキどもがっ!! ー
ヤベェ!殴られる!
振り上げられた手を見て、とっさにチビ子を抱え込んで庇った。
あ、あれ・・・殴られるんじゃ、ないのか?
チビ子を抱きしめたまま、顔だけを向ける。
「おぅ・・・ちゃん?」
「ザ~ンネン!オレはおぅちゃんじゃない方で・し・た」
なんだ?
どうなってんだ?
よく見れば、振り上げられた手はしっかりと掴み上げられ、身動きが出来ずにオッサンはもがいていた。
『けぃちゃん・・・』
「は?誰だよそれ」
『もうひとりのつーちゃんのお兄ちゃん』
はぁぁぁ?!
チビ子、兄ちゃん2人いたのか?!