第1章 向日葵と薔薇
街灯が照らす住宅街をゆっくり歩く。
仕事の繁忙期、毎日始発で仕事場へ向かい、クタクタになって終電で帰ってくる。
次の休みはいつなんだろう、早くこの窮屈なスーツを脱いでお風呂に入って横になりてぇな、久しぶりにコンビニじゃなくて、暖かいご飯が食べたい・・・。
ローヒールの重い足取りを、何とか前へ前へ踏み出し、アパート二階の自分の部屋を目指す。
もう少しで部屋だ、あぁ、やっと休める。
立ち止まり鞄から鍵を取り出すと、隣の部屋のドアがタイミング良く開いた。
「やっと帰ってきたな。」
「………中也さん。」
「そんな嫌そうな顔してんじゃねぇよ。これ、菜那のだろ?」
彼の手には俺宛の郵便がある。
何故?
「間違えてうちの郵便受けに入ってたんだけどよ、菜那最近遅いから待ってたってわけ。」
「すいません、ありがとうございます。」
「まぁ全然いいけど、…っつーか、菜那、最近ちゃんと飯食ってる?」
「あー、忙しくて…。朝と昼はウィダーゼリーで済ませてるんです…。夜はコンビニでしっかり食べてますけど…。」
「はぁ?!どうりで少しほっそりした訳だ!!」
「はい、そういう訳なんです。じゃ、私これから寝るので。」
なんだか面倒くさそうな予感がしたからお休みなさいと言って部屋に入ろうとすると、手首をしっかり掴まれた。