第2章 過去
その男の子と優美は、中庭で二人で花を眺めるという静かな時間を過ごしていた。優美が1人で花を眺めていると、どこからかやってきて静かにその男の子が優美の隣にしゃがみこむのだ。いつもは会話などないがこの日は違っていた。
「......お前」
『どうしたの、お兄ちゃん?』
「...名前は」
ぽつりとそう呟いた。
『優美っていうの!』
「そうか」
『お兄ちゃんは?』
「...ザンザスだ」
そこからはぽつりとだが、会話が続いていく。この日を境に、二人はここに来ると話をしていたのだった。そんな距離がぐっと近くなった日のこと。
『ザンザスー!』
「...優美」
今日もどこからか歩いてきたザンザス。それに気づいた優美がニコニコして手を振る。ザンザスは名前を呼んで近づいた。そして優しく優美の頭を撫でた。
「お前、じじ...9代目の養子だったのか」
『わたし?うん、そうだよ!ティモはね、私のパパとママが死んじゃったときに引き取ってくれたの!覚えてないけどね』
「...そうか」
この日のザンザスは、いつもよりどことなく様子が違うのに優美は気づけなかった。それもそのはず、まだ優美が小さいというのもあるが、優美のことを実の妹のように可愛がっているザンザス。そのため優美といるときは、あの身体中を巡っている激情も少しは和らいでいたのだから。
『あのね、あのね…』
ザンザスは思った。
「(あのくそじじぃはいけすかないが、こいつ、優美は危険な目に合わせたくねぇ)」
そして、あのボンゴレを揺るがす事件が起こる前の日。ザンザスと優美はいつもの場所で会っていた。
「優美」
『どうしたの、ザン兄?』
「明日はイイコで部屋にいるんだ。何があっても外には出るな。出来るか?」
あの半年前、優美とザンザスが義理ではあるが兄妹だと気づいてから呼び方はこれに定着していた。そしてその義理の妹を可愛がっているザンザスはこれから起こすことに、この妹を巻き込みたくなかったのだ。
『明日?』
「...そうだ」
『ん、わかった!いい子で部屋にいる!』
ザンザスは優美の頭を優しく撫でたのだった。