第6章 あなたの手を離さない~信長√
歌恋の部屋の手前まで行ったものの、そのまま戻ってきた信長の様子を秀吉は見逃さなかった。
(御館様?歌恋の部屋にいかずに天守に戻られるなんて。)
とりあえず信長の様子を心配し、天守に行き信長に声を掛けた。
「御館様失礼致します。」
「どうした。秀吉」
「先程、歌恋の部屋の前まで行ったのに、顔を見ずに戻られたので…」
「ふん、見られておったか。」
「まぁよい。」
「歌恋が、元いた世界に戻るかもしれないとしたらお前はどうする。」
「歌恋が?…」
驚いたと同時に急に秀吉の顔が曇る。
「御館様、それは決まったことなのですか?」
「わからん。」
信長が残っていた徳利のお酒を一気に飲む。
「俺なら…あくまでも俺個人の意見ですが、あいつを帰らないように考えます。」
秀吉は信長が歌恋のことを好いているのを気づいていた。
そして歌恋も時より信長に対して他のものとは違う瞳で見ているのも…。
だが、本人同士はまだはっきりとは気づいていない。
まわりの人間からしたらじれったいの他にない。
「帰らせないようにか…」
「はい。」
「歌恋からまだはっきりと聞いたわけではないのなら、聞いてみたらどうでしょうか?」
「もし、まだ迷っているのなら、もっとここにいたいと、思えるような状況に…」
「珍しいな。お前がそのように自分の考えを話すのは…」
「申し訳ありません…。ですが、歌恋はこの安土のもの達には無くてはならない存在になっているのは事実ですから」
そう言って一礼して天守を後にした。
その日はあまり眠れなかった。