第4章 動き始めた気持ち、揺れる恋心~
〈信長視点〉
歌恋が俺の命を救い、行く宛もないからと安土に置くようになって約二月。
三成、政宗、家康、秀吉、恐らく光秀もだろう歌恋に対して何かしらの思いを持っているのは見ていれば分かる。
況やこの俺もその一人に入るのか…。
【第六天魔王と言われた俺が…】
恋だ愛だという感情は持ち合わせていないと思っていた。
実の兄ですら倒さなければならない環境。そして天下布武を成し遂げる為にと犠牲にしてきたつもりはないが、あいつに言わすと『信長様は色々なものを犠牲にし、今の信長様になったのですね…』
と。
歌恋が倒れたと三成から報告を受けた時には足元から熱を奪われるような感覚に陥り、胸の奥でどうしようもなくかき立たされるものが湧き出てきた。
(一刻も早く歌恋の側にいき、ついていてやりたい)
そんな思いになった。
こんな感情は初めてに近いだろう。
女なんぞ遊郭などいけばいくらでもいる。この安土にも多くの女がいる。
そして大名の娘などもいる。
【織田信長】という名を目当てで近づいてくるヤツなど数え切れない程いた。
だが、歌恋は違った。
最初は名前を知らずに本能寺で俺を助けたが、名前をしり、安土城に来てからも変わらずに、人々を惹き付けた。
少し揶揄うと顔を赤くし怒る歌恋。
『しょうせつ』と言う物語やおとぎ話を読んだりする時の穏やかで包み込まれるような、柔らかくどこか艶のある様な声。
時には子どものように目を輝かせはしゃぐ歌恋
そうかと、思えば恩を忘れず、どこの大名の娘に負けず劣らずの礼儀作法。
囲碁の勝負といって天守閣に呼んだが、何故か側にいるだけで心安らぎ、その夜は時間は短くとも深く眠ることが出来た。
そんな事を思いながら信長は心の中で『待っていろ歌恋』
(早くお前の声を聞かせ、俺をさらに幸福にさせろ。)
いてもたってもいられない気持ちが馬をさらに早く走らせた。