第4章 動き始めた気持ち、揺れる恋心~
信長様の羽織を直してからというもの、武将達の着物を中心にホツレをなおしたり、破けてしまったりした所をなおしたり、と少しずつ仕事が増え、口コミで広まっていった。
信長といえば、羽織の件から更に歌恋の事が気に入ったようで、ちょくちょく天守閣に呼んでは何故か囲碁の相手をするようにと命じていた。
もちろん、囲碁なんてほとんどやったことなんてない。
祖父が好きで1人で打っていたのを見ていた位で、勝負なんてしたことも無かった。
「信長様、今日こそは負けませんから!」
(現在信長様5勝0敗…。容赦なくやって来るから全然勝てない…。)
負けつづけ5戦目。
(次に負けたらもう挙げるもの無いからどうしよう…。)
信長は負ける度に、私の持ち物を差し出すように命じていた。
(それというのも、信長様が『貴様が負けたら身体の一部をよこすか、貴様が持ってきた持ち物を寄越せ。』なんて言うからだし…。)
1回目はくまたんのストラップ。あれはお気に入りだったから挙げたくなかったけど、勝てば返してくれるんだから勝てば良いしと、思ったのが間違いだった。
2回目は小説。携帯であるゲームの二次元小説をまとめて単行本化したもの。電車の移動の際に読むため、仕事用のカバンに入れておいた。
3回目はサングラス。車の運転用にしか使ってないけど、それなりに値の張るものだったから何気にショックだった…。
4回目は刺繍が入ったハンカチ。この刺繍は私が子どもの頃に初めて祖母から教わり刺繍したもの。たしか4歳頃にしたものだから本当に下手なものだけど…。
信長様は私が差し出したものは全て天守閣の一画に飾って置いてくれている。だから取られた感はあんまり無かった。
『次に貴様が負けたら身体を寄越せ』ー
(うぅ…どうしよう。今日もなんか勝てない気がしてきた。)
「どうした。歌恋次は貴様の番だぞ。」
んーこうなるともう手がない。5回目にしてマグレでも勝てかと思ったのが間違い。
『負けました…』
素直に負けを認めた。