第22章 歴史は繋がれていく~新しい生命と日常~
信長様。神月弥一様がお見えになりました。」
秀吉が襖越しに声を掛けた。
「通せ」
その言葉を聞いて秀吉は神月弥一と娘、千姫を中に入れた。
「お初にお目にかかります。神月弥一と申します。信長様のご活躍は安土を離れた我が領地まで届いております。」
そういうと弥一は娘にも挨拶をさせた。
「はじめまして。娘の千姫と申します」
色白で黒髪、少々小柄な背丈だが見た目は申し分ないほど。
「娘はまだ20になったばかり、その辺にいる大名の子どもに嫁がせる位なら信長様の妾にして頂いた方が光栄と思いお伺いさせて頂きました。」
信長は上座に座り、特に喋らず事が過ぎるのを待っているかのようだった…
「信長様には既に子どもが三人おられる。奥方様の事もとても愛していらっしゃる。それでも妾にしようと言うのか?」
秀吉が信長の気持ちを代弁するかのように話た。
「お世継ぎであられる結人様はあまりお身体が強くないとのこと。奥方様も30手前で子を産むのは難しいでしょう。ですからまだ若い娘、千姫を妾にして頂き、子を産ませればと・・・」
「神月、お前いくら大名だからと、それは失礼だろ!」
秀吉が立ち上がり少し声を荒らげると信長が口を開いた。
「落ち着け秀吉。」
「ですが…」
「まぁ、良い。俺は妾を作る気は無い。家老達からどのような話を聞いたかはしらんが、結人だけが世継ぎではない。それに愛しい妻の事を卑下するような事は気に食わん。」
「それは大変失礼いたしました。折角の機会ですからしばらく娘を置いていきます。もし気に入ったようであればそれはそれで縁と言うことで。」
弥一はそれだけ言って出ていってしまった。
「千姫と言ったな。」
「はい」
「俺は先も話した通り妾を取る気はない。俺が抱くのは歌恋だけだ。父になんと言われたかしらんが、貴様も国へ帰るが良い。」
信長は冷たい瞳で千姫をみた。
「申し訳ありませんが父から信長様の妾になれるまで国へは戻るなと言いつけられております。だから帰るあてもありません。」
千姫も頭を下げたまま動かず、父親の言うことは絶対だといい帰ろうとはしなかった。
「好きにしろ。ただし、天主へは絶対来るでない。それと貴様を抱くことは無い。食事も別だ。」
そう言って秀吉に後を託し広間を後にした。