第16章 届けこの思い~幸せはすぐそこに~
その日の朝はいつも通り過ごし、昼過ぎにひっそりと京都の家を出た。
佐助とタイムスリップした日、あの時は夕方くらいだった。だったらその位にもしかしたら・・・と荷物をまとめて出てきた。
祖父母に貰ったあの着物を着て、羽織を抱きしめて石碑の前に立った。
部屋には手紙を置いてきた。
昨日のうちにちゃんと育てて貰った事や今回の事の感謝の思いは伝えた。
でも最後に顔を見たらきっと気持ちが揺らぐかもしれない。それに万が一に巻き込むことだけはしたくなかった。
(ごめんなさい・・・おじい様、おばあ様。)
そして、夕方、今まで天気も良く3月にしては暖かい位だったのが嘘のように冷たい風が吹き始め、雲行きも怪しくなる。
遠くの方で雷もなり始めた。
「さっ、お父様の所へ行くよ。あなたの事は私が必ず守るからね。」
(お願い、あなたのお父様の所へ繋げて・・・)
石碑に手をあてると不思議と風もおさまり、雲の流れも止まった。
目を閉じると安土で過ごした日々が蘇ってきた。
「信長様・・・。」
『このまま進めばもうここへは戻れないが良いのか…』
そう石碑から聞こえた気がした。
勿論私の答えは決まっていた。
『私は織田信長を愛しています。あの方と一緒に居られるなら構いません。』
そう答えるとすっと白い光に包まれた。
『ならば行くがよい。500年前の戦国時代へ。織田信長の元へ』
『ありがとうございます。』
両隣には信長様によく似た男の子と、自分によく似た女の子が立っていて、手を差し出してきた。
『行こう・・・お父様の元へ』
そう言い二人の手を繋ぐと渦の中に吸い込まれていった、
あの時の声と子どもはだれかわからないけど、きっと許してもらえたのかな…あの方のそばに居ることを。