第4章 霧の上へ〜氷の洞窟〜
私が納得して頷こうとすると、やっぱりと言うか、スタイナーが割って入ってきた。
「貴様、なにを言うか!」
いきり立ったスタイナーはあろうことか、ジタンの肩を思いっきり突き飛ばした。
すぐそこは崖。
思わず息を飲む。
バランスを崩したジタンは手足をバタつかせ、なんとかその場に踏みとどまった、けど…………今のは危なかった。
これにはさすがのジタンも目に見えて肩を怒らせるけど。
それでも、スタイナーも言いたいことが色々積もっていたのか、ここぞとばかりに言葉を連ねる。
「姫さまがコソコソする必要などない! 我々はすぐに城に戻るのだから、そんなことは関係ないであろう! それに貴様のその態度は何だ? 姫さまに対して無礼であろう! その呼び方も改めるのだ!」
確かにスタイナーも思う所があるのかもしれないけど、突き飛ばしたのはやりすぎだ。
「おっさん、うるせえよ。あんたにゃ関係ねえだろ!」
青い瞳が揺らめく。
「だいたい、あんた何様のつもりだ? えらそうにしやがって……」
そう言って、ジタンは腰のホルスターから刃物を抜いた。
さすがにこれ以上はやばい。
「ふたりともやめてよー!」
「ふたりとも、やめてください!」
ビビも私もあわあわと声をかけるけど、二人には届いていないようで。
ああ、どうしよう。
向かい合う二人には張り詰めた空気が流れている。
「っダメーーー!!」
私は声を張り上げ、バッと手を広げて割って入った。
二人の肩がビクッと揺れる。
目の前の驚いた瞳と見つめ合うと、すぐにジタンは構えていた腕を下ろした。
よかった、正気に戻ったみたいだ。
息をつくと、今度はスタイナーと向かい合う。
彼と目を合わせると、さすがにやりすぎたと自覚があったのか、うっと詰まったように口元を引き結んだ。
「……スタイナー、わたくしは城に戻るつもりはありません」
ガックリと肩を落とすスタイナーを見て、これで少しは懲りたかなと思うあたり、私もガーネットになりきることに慣れてきたのだと思う。
思ってから、ゲンナリした。
ガーネットになりきることに慣れるとか。
今は仕方なくガーネットの身体を借りているけど、いずれ返すんだから。
むしろ、私は返すことを目的に旅をしてるはずで。
しっかりしろ、私。