第4章 霧の上へ〜氷の洞窟〜
「へぇ、珍しいな」
ビビのかぶってる帽子が珍しいのか、この洞窟に人が通ったことが珍しいのか。
おそらく両方だろう。
ジタンは少し考える素振りをして、再び食事の準備をし始めた。
「ほいでな、氷漬けにされてっとき、なんの挨拶もせんとスティルツキンが通っていきよってん! そやけど、俺も氷の中におったから返事はできんかったけどな!!」
そう言うと、モイスは大げさに笑った。
「スティルツキンが?」
「おっ、ビビもスティルツキンのこと知っとんのか?」
「うん、ボクも会ったことあるよ」
なにやら、スティルツキンなる者で会話が盛り上がっているらしい。
「スティルツキンとは、どんな方なのですか?」
気になって、思わず尋ねた。
「世界中を旅してるみたいだよ」
「俺と同じモーグリやで」
二人から、それぞれ答えをもらう。
モイスがふと遠くを見詰め、細い目をいっそう細めて語り出した。
「俺も世界一周旅行とか憧れるけどな、やっぱりここが一番や。引きこもり言われても、ここが落ち着くねん」
あんな氷漬けにされてもこの場所に愛着があるのか。
彼はそう言って何かを取り出した。
「せやから、この手紙を渡してくれへんか」
ゴソゴソとどこにしまっていたのか、彼の身体ほどある封筒をビビに差し出した。
「この洞窟を抜けた所に小さな村があるから、そこにおるグーモいうモーグリに渡してほしいねん。ほら、ここ見てのとおり洞窟やん? なかなか配達員も来なくてなぁ。せやから、俺のこと助けると思って、な?」
ビビは重大任務でも言い渡されたように神妙な顔つきをすると、コクリと頷いた。
「おおきに!」
モイスは嬉しそうに飛び跳ねると、赤いボンボンを揺らした。