第3章 落ちた劇場艇〜魔の森〜
ガバッと身体を起こした。
「……っ! あ、ここ夢の中」
見渡す限りの白。
ふわふわと浮く身体。
こちらの世界に来てから、幾度となく体験してきた空間に、私はほっと息をつく。
ここに来たってことは、現実の体が意識を失ったってことだ。
最後の記憶を手繰り起こす。
目を見開いたジタンとスタイナー。
その二人が徐々に遠ざかっていく記憶。
たぶん、私を乗せたモンスターは二人に敵わないとみて、逃亡を図ったんだろう。
逃げるなら私を置いて逃げていってほしかった。
次に目が覚めた時が恐ろしい。
生きて魔の森を出れるのかな……
すごく不安だ。
……そうだ、ガーネットは。
ぐるりと視線をさ迷わせれば、そう遠くない場所に彼女は横たわっていた。
その体もふわりと浮いている。
彼女に近づけば、その端正な横顔が目に入った。
相変わらずの美しさ。
いや、寝てる今はどちらかというと可愛い、かも。
私がしげしげと寝顔を見つめていると、ガーネットの口が僅かに開いた。
「……お母さま」
その言葉に、アレクサンドリアから飛び去った時のあの惨状がフラッシュバックした。
上がる悲鳴に、崩れたレンガ造りの屋根。
……いったいどれだけの犠牲が出たんだろう。
生であんな光景を見たのは初めてのことで、軽くトラウマものだ。
できるだけ多くの人が無事だといいんだけど。
…………
ふと、思ってしまう。
私がしたことは本当に正しかったのか。
ガーネットが家出なんてしなければ、あんなことには。
…………いや、
そもそもブラネ女王の異変を伝えに、隣国リンドブルムに行こうとしたんだから。
全ての元凶はブラネ女王にあるんだ。
そこまで考えを巡らせると、寝起き特有の気だるげなうめき声が響いた。