第13章 いつか帰るところ~黒魔導士の村~
タンタラスを抜けて故郷探しをしたジタンだったけど、結局故郷を見つけることはできなかったらしい。
「それで男は戻ったのさ、育ての親の元へ……そうしたらその育ての親、どうしたと思う?」
「やさしく……迎えてくれた?」
「まさか! その男の育ての親は、拳をふりあげてなぐったんだ、その男のことを……」
え!
私は慌てて口を押さえる。
あぶない、話の展開に驚いて声がでるところだった。
「でももっとビックリしたのはその後さ。その育ての親は、なぐり終わった後、ニカッと笑ったんだ。信じられるか?
でもな、その男はなぜか、その笑顔を見て思ったんだよ。ああここが、オレの『いつか帰るところ』だ……って」
ジタンの話していることは、なんとなくわかる気がした。
お兄ちゃんとの喧嘩を思い出すと、重なる部分が多かったから。
喧嘩をして私が不貞腐れて公園にいると、必ずお兄ちゃんは私のことを探しに来てくれて、帰りにコンビニで好きなものを買ってくれる。
きっと、お兄ちゃんが迎えに来てくれることがわかってて、私はいつも公園に行く。
結局私もお兄ちゃんのことを信用しているし、これからも嫌いになんてなれないんだろう。
いつか帰るところ……。
ジタンは故郷を見つけることはできなかったけど、その代わりに『いつか帰るところ』を見つけることができたんだ。
私はそっと壁から背を離す。
それから少し考えを巡らせると、再び歩きはじめた。
私にとっての『いつか帰るところ』は、お父さんやお母さん、お兄ちゃんがいる我が家だった。
でもあの家にはきっともう帰れないだろう。
なんとなくそんな気がしている。
だったら、今の私の『いつか帰るところ』はどこなんだろう?