第13章 いつか帰るところ~黒魔導士の村~
「レイナ」
視界の端に太陽がちらつくようになった昼下がり。
もう少しで夕暮れかなと思って歩いていると、後方から名前を呼ばれたので振り返る。
「……!」
そこにはじっとこちらを見つめるダガーの姿。
どきりと胸が跳ねる。
村を歩きまわってる時に心の準備をしていたつもりだったけど。
いざ対面すると、少し緊張する。
「えっと……こんにちは」
「レイナよね? わたしのことがわかる?」
私が尻込みしながら無難な挨拶を返すと、ダガーがすぐに本題を切り出してきた。
控えめでありながら、はぐらかすことを許さない緊迫感。
これは……ごまかせそうにないなぁ……。
やっぱり言わなきゃだめだよね。
私だってこと。
本当はまだ迷ってる。
だってクジャそっくりの見た目になってしまったし。
敵側についたと思われるんじゃないか。
裏切ったと思われるんじゃないか、って。
きっと私は嫌われたくないんだ。
信頼を寄せてくれていたダガーに失望されたくない。
いつまでも保身的な自分の考えに辟易する。
でも、だって。
いつも私はそんな言い訳ばかりして、大切なことから逃げている。
顔を上げると、こちらをまっすぐに見つめるダガーの黒い瞳があった。
かっこいいな、ダガーは。
ダガーは国の王女さまで、不穏な動きをする母親を変えるために、国のために行動していて。
私なんかよりよっぽど大変な身の上にいるのに、悩むことはあれど一切逃げたりなんかしない。
そうだ、私はそんなダガーが好きで。
彼女のようになりたくて、彼女の助けになりたくて。
ぐっと握っていた手に力を入れた。
緊張から声が震えないよう、そっと口を開く。
「ダガー……えっと、お久しぶり、です。レイナ……です」