第11章 ターニング
一日三度、食事を持ってくるためにサウスは部屋から出ていく。
その隙に部屋を抜け出すという算段を立てていた。
クローゼット内のおびただしい数の洋服たちから、動きやすそうな服を選びだす。
「このローブ……」
一枚の白い上質なローブを手にとる。
私の膝丈ほどの長さがあり、顔を隠せそうな大きなフードがついている。
ダガーと一緒にアレクサンドリア城を抜け出した時に身に着けていたローブと似ていた。
あのときは楽しかったなあ。
タンタラスの皆も手伝ってくれて。
この世界に来たばかりで、見る物全てが新鮮で。
なんでだろう。
今とあのとき。
状況は似ているはずなのに。
今は不安ばかりが体にこびりついている。
あのときだって、いつブラネ女王に捕まってしまうかわからなかったのに、なぜかどうにかなると思えていた。
私はダガーの体にいただけだったから?
それもあるけど、たぶんそれだけじゃなくて。
いつも私たちの一歩先には、水先案内をするように金色の尻尾が揺れていた。
その尻尾についていけば、きっと大丈夫。
どうしようもなくなったら、振り返って助けてくれるんだって安心感があった。
でも、今は導いてくれるその尻尾もない。
大勢の仲間たちもいない。
とたんに全身を拘束するような不安に襲われた。
机の上でロウソクの炎が揺れている。
明りに相対するように漂う影が、やけに暗くどんよりとしたものに感じる。
「レイナ……?」
「……あ、ユウ」
「どうしたの? だいじょうぶ?」
こちらを見上げる、不安そうな瞳を見てはっとした。
いけない、私がこんなんだと、ユウだって不安になるよね。
今は、私がジタンみたいな存在にならなくちゃ。
ジタンだったらこんなとき、どうするだろう。
少し考えて、私はニッと自信ありげな笑顔を浮かべた。
「心配してくれたの? もう、ユウってばやさし~! もしかして、ユウこそ緊張してる?」
「……うん」
「だーいじょうぶだって、私がいるんだから」
そう宣言してユウの背中をたたくと、ユウはこくこくと頷いていた。
あ、少し大丈夫になってきたかも。
「ゆっくりしてたらサウスが戻ってきちゃうね。そろそろ行こっか、ユウ」
私はローブを羽織ると、ドアを押し開けた。