第11章 ターニング
「はあ~」
「レイナ? どうしたの? からだ、どこかわるい?」
「ううん、どこも悪くない……大丈夫……」
クジャと部屋に戻ってきてから、ベッドから動かない私を心配しているのか。
ユウが顔をのぞきこんでくる。
「クジャにわるいことされた?」
「ううん、そんなことな……くもない……かも」
「えっ、レイナだいじょうぶっ?」
あいまいに返した私の言葉に、右往左往するユウ。
ユウはいい子だなあ。
私のはっきりしないぼんやりとした言葉にも、こんなに心配してくれる。
「大丈夫だよ、少し寝れば元気になるから」
ユウの背中をなでくりまわしてやると、くすぐったそうに声をあげる。
昔よく遊びにいっていた友達の家にいたゴールデンレトリーバーみたい。
体中をわしわしなでると、嬉しそうにお腹を見せてくるのだ。
それがすっごくかわいくってお母さんにせびったなあ。
結局、お父さんが反対して、飼うことはなかったけど。
「……ユウ」
「なっ、なに?」
いまだ私のくすぐりをうけているユウは、跳ねた声で答える。
「……逃げ出しちゃおっか」
「にげるの?」
「そう……ここから逃げるの。ユウもクジャのこと怖いでしょ?」
「うん、こわい……けど、どうやって?」
「大丈夫、私にまかせて」
考えなんて何もないけど。
外出が多いクジャの目を盗んで逃げることは、意外とできる気がしている。
「サウスは?」
「サウスは……置いてく」
しょんぼりとしたように下がったユウの肩を、こんどは優しくなでる。
クジャは明日、再びアレクサンドリアに行くと言っていた。
去り際、クジャは何か言いたげにこちらを見つめていたけど、私はベッドに伏せたまま目を合わせなかった。
「明日の夜にはここをでよう」
自分に言い聞かせるようにそういうと、ユウは不安そうにとんがり帽子を揺らした。