第11章 ターニング
上品な作りの廊下を進んでいくと、やがて天使と悪魔をモチーフにした像が並ぶ部屋にたどり着いた。
どこに目をむけてもセンスのいい調度品ばかりが置かれている。
しかし先に続く道はもうない。
「ここは?」
「行き止まりに見えるだろう、ちょっとした仕掛けがあるのさ」
クジャが指先を振るうと、現れた炎の球がゆらりと浮遊し、ふわりと行きついた先でロウソクに明りをともした。
その瞬間、まるで魔法のように何もなかった空間に光の階段が現れる。
「わあ、すごい……天国に続く階段みたい」
「この階段をのぼった先は、一番天に近い場所だ。さあ、おいで」
振り返ったクジャに手を伸ばされる。
その手をつかむと、彼に先導されるように、私は透ける階段にこつりと足を踏み出す。
そこは、今まで歩いてきたステンドグラス張りの巨大ドームの最上段だった。
光を散り散りに反射させるグラスの美しさを一番近くで眺めることができる。
まっすぐに伸びた階段通路の先には、祭壇のような豪華なロウソクが立っている。
クジャは静かに祭壇に近づくと、女性の像の首元に装飾品として飾られていた貴金属を手に取った。
ゆっくりとした動作でそれを持ち上げると、たゆっている装飾がチャリ、と広い空間に粛然と響く。
「こちらへ」
クジャの呼びかけに、引き寄せられるよう私は近づく。
彼の目前まで歩みよると、ネックレスが私の首元に静かに下ろされた。
ちゃんとした金属に見えたけど、意外にも重くない。
今までの人生で触れたこともないような調度品なのに、むしろ自分の肌になじむ気がするのが不思議な感覚だ。
「似合ってるよ、プリンセス」
「……ありがとう」
「今日の記念のプレゼントとして、受け取ってくれると嬉しいな」
特別な日でもないのに、何の記念なんだと思いながらも、少し嬉しく思う私がいた。