第11章 ターニング
こつりこつりと靴の音が響く。
人の気配のない空間は少し冷たげで。
でもところどころで灯るロウソクの炎が静かに私たちの影を揺らしていた。
「うわあ……きれい……」
大きなドームのような空間は、大胆にも天井にかけて球をえがくように巨大なステンドグラスがはめ込まれていた。
散歩と称してクジャに部屋の外を歩かせてもらうことになったけど、
水色の魔法陣を乗り継いでたどり着いた場所はとても個人宅だとは思えないほどの素敵な空間だった。
さきほど着替えた薄ピンクの透けるようなドレスを身にまとってこんな素敵な空間にいると、なんだか本当にどこかの姫にでもなったような気分になる。
「すごいよ、クジャ……すごく広くてきれい」
「お気に召していただけでなにより」
「この家クジャが建てたの?」
「建てた……というか建てさせたの方が正解かな? そこまで褒められると作ったかいがあるね」
隣を見上げると、クジャが赤紅を引いた目元を細めていた。
あ……素直に言いすぎたかな。
今までに何度か見るクジャのこの優しい顔は、心の奥底にしまっている罪悪感がうずくから少し苦手だ。
「わあ、こっちには何があるんだろう」
ふいと視線をそらして私は足を進める。
クジャと二人きりで話すのは久しぶりのこと。
彼もなかなか忙しいみたいで、そもそも会うのが久しぶりだったりもするし。
結局、私はクジャに対してどう接していいものか決めきれずにいた。
本当だったらこの場から一目さんに逃げてしまうべきなんだろうけど。
現実的に逃げれる実力が私にはないし。
それに彼が何を思って私に目をかけてくれているのかわからないから、それを知りたいとも思う。
すぐ隣まで近づいてきたクジャを見上げる。
すぐにその視線は交わって、彼がずっと私のことを見ていたことに気づいた。
白い陶器のような手が伸びてくる。
少し前の記憶のように、その手は私の頭を優しくなでた。