第11章 ターニング
それからしばらくはいつものように部屋の中で静かに過ごした。
喋れるようになったユウと食事がおいしいねと話したり。
サウスにたまにちょっかいを出してみたり。
自分でも気づかなかったけど、無意識にずっと気をはっていたみたいで、ユウと話していたら心にゆとりができた気がする。
ずっと見ないようにしていた鏡の前にも試しに立ってみた。
うん、前ほど動揺はしてない。
大丈夫大丈夫。
まだ言い聞かせてる部分もあるけど、少しくらいはね。
そういえばサウスはポテチを食べてもユウのようにはならなかった。
やっぱり黒魔導士でも個体差とかってあるのかな。
ちなみにユウは幸せオーラ全開でむしゃむしゃ食べてた。
そんな時間を過ごしていたある時。
部屋に来訪者を知らせるノック音が響いた。
「久しぶりだね、プリンセス。元気にしてたかい?」
「クジャ!」
久しぶりに見たクジャは相変わらず派手なメイクに変態的な格好をしていた。
彼は誰に見せるためにいつもお腹を出しているのだろうか。
まあ見事な腹筋ではあるけども。
「おやおや、楽しいティーパーティーの最中だったかな? 良ければ僕も仲間にいれてくれないかな?」
ちょうど三人で食後のデザートを食べていたところで、テーブルに乗ったティーカップとデザートプレートを見てそう言ったのだろう。
「残念、今ちょうど食べ終わったところなの」
「ほう、それは残念だね」
目の前に座っているユウが、ぴきーんと体を硬直させている。
急にクジャが現れたせいで、だいぶ緊張しちゃってるのが手に取るようにわかる。
あ、手に持ってるフォーク落としてる!
ユウ、落ちついて!
このままだとユウの異変に気付かれるのは時間の問題だと、私は急いでクジャに話をふった。
「クジャ、ティーパーティーの代わりに、食後の運動に付き合ってくれない?」
「食後の運動?」
「部屋の外を散歩したいの。クジャも一緒ならいいでしょ?」
クジャは少しの間悩むそぶりを見せたけど、比較的すぐに「いいだろう」と許してくれた。
「歩きやすい服に着替え方がいいね。僕はしばらくしたらまた来るよ」
クジャがそう言って部屋から出ると、目の前からプハーと息を吐きだす音。
涙目のユウと目が合う。
……ちょっと怖がらせすぎちゃったかな?