第11章 ターニング
「お手」
「…………」
「おすわり」
「…………」
「一周回って、わん」
「…………」
さっきから律儀に私の命令に従ってくれている黒魔導士さんは、とてとてとその場で回ってくれる。
正面を向き直った彼はふらりと体を揺らした。
平衡感覚は普通にあるらしい。
「わんとはさすがに言わないか」
「…………」
ぴくりとも動かさずにこちらを見つめてくる金色の瞳。
「ビビみたいに話し相手になってくれたらいいのになあ」
私はぼすんとベットのふちに座る。
扉の両脇にはあいかわらず黒魔導士の二人。
ちなみに呼び名は決めた。
右と左を文字ってそれぞれ、ユウとサウス。
サウスはサウスポーからとってサウス。
私にしてはなかなか悪くない名前をつけたつもりだけど、名前を呼んでも無反応なのでだいぶ寂しい気持ちになる。
「二人ともずっと立ちっぱなしだけど疲れないのかなあ。ビビは歩きっぱなしとかだと普通に疲れてたけど」
ほんのいたずら心で私は立ち上がると、扉の左側に立つサウスに近寄って膝をちょんちょんとつついてみた。
「…………っ」
つついた途端、その場に膝から崩れ落ちるサウス。
同じことをユウにもすると、全く同じ反応。
ちょっと面白い。
「きっとクジャに、ずっと扉の横に立って私のこと見てろって言われてたんだろうなあ」
部下の体調に気を使えないのはダメ上司ですよ、クジャさん。
代わりに私が彼らに椅子をあげた。
座って見張りすれば少しは楽でしょう。
「ふふふ、なーんてね。私が優しさだけの女だと思ったら大間違い!」
二人が腰を下ろしたのを見計らって、すかさず出入り口のドアにダッシュ。
ドアの取っ手をつかみ、押し開けようとしたところで、私の腕は止まった。
「…………」
「…………」
私の両腕をつかむ大きな手が両サイドからひとつずつ。
がっくしと肩を落とす。
このくらいじゃ出られないかぁ。
ドアの取っ手から手を離すと、両サイドから伸びていた手も戻っていった。
私は諦めてベッドに戻る。
クジャの言う通り、ユウとサウスは私が何か欲しいと言えば大抵のものを持ってきてくれるし、
私の言うことを聞いてくれるみたいだった。
ただしこの部屋から出ること。
それだけは許してくれない。
「どーしたもんか」