第11章 ターニング
クジャの手がテーブル越しに伸びてきた。
すらりと細くて長い指。
クジャは顔もおしろいを塗ったように白いけど、手も透けるような白い肌をしている。
「新しい体になって、不安に思っているんだね。かわいそうに、僕が慰めてあげる」
クジャの指が頬に触れ、顔の横を流れる銀の髪を控えめに手の甲でなぜると、次に頭をなでられた。
彼の思っていることは合っているようで、たぶん合っていない。
だけど不覚にも、頭をなでられたことで少しだけほっとしてしまう自分がいた。
昔、私が落ちこんでソファーでうずくまっていると、それに気づいたお兄ちゃんがよく私の頭を撫でて慰めてくれた。
いつもはあーだこーだ言うくせに、肝心な時には優しいお兄ちゃんのことを思い出す。
クジャの手は野球をしていたお兄ちゃんのごつごつした手と、全然違うけど、それでも撫でる手の優しさが似ている気がした。
私のことを思ってくれているのだと伝わる。
クジャはなぜブラネ女王に手を貸しているんだろう。
どうして黒魔導士を作っているんだろう。
今まで少しも理由を知りたいなんて思わなかったけど、少し知りたくなった。
だって、私の頭を今優しく撫でている彼が、戦争を起こそうとしている人物だと思えない……思いたくない。
私は単純だろうか。
自分に優しくしてくれる人が、本当は悪い人じゃないのではないかと思い始めている。
たぶん、自分で思っている以上に私は流されやすい人間なのかもしれない。
でももう少しだけ、クジャについて知ってから、いろんなことの判断をしてみてもいいんじゃないかな。
「少しは気分が晴れたかな?」
「…………うん…………ありがとう、クジャ」
「君のためならいつでも僕の手を貸してあげる」
クジャの顔を見て、私はわずかに微笑む。
胸の内を占めていた黒いもやはほとんど消えていた。