第11章 ターニング
しばらくすると私の様子を見に、クジャがやってきた。
「調子はどうかな? 姫?」
「まあ、おかげさまで」
「うん、やっぱり君は白の服がよく似合うね」
ネグリジェのような寝間着だった私は、お世話係の二人によって質の良い白のワンピースに着替えていた。
クジャは優雅な所作で私の対面の椅子を少しだけ引いて腰かける。
「さっき出したお茶はどうだったかな?」
「お茶? まあ、まずくはなかったけど……」
「まずくなかった、じゃなくて美味しいと言ってほしいね」
「はあ……」
クジャはいちいちこういうところにうるさい。
確かに細かい言葉遣いは大切かもしれないけど、今はクジャに対して気をつかった喋り方をしたくなかった。
私は手元のティーカップに視線を落とす。
クジャを見ていると、さっき鏡を見た自分の姿を思い出してしまうから、今はあまり見たくない。
「君には僕のそばにいる自覚が足りてない。美しい僕のそばにいる女性にはもっと美しい喋り方をしてもらわないと」
クジャにとっては何気ない言葉だったのかもしれないけど、”僕のそばにいる女性”という単語は思った以上に今の私の心をえぐった。
膝の上で握っていた手にぐっと力を入れる。
後悔が胸に押し寄せていた。
安易な考えしかしていなかった自分への怒り。
普段からちゃんと考えて行動していないからこういうことになる。
とりあえずあの白い空間から出してもらって、その後のことはそれから考えればいい、なんて。
ダガー達の元に帰れない姿になってしまうことだって十分考えられたはずなのに。
……もう彼らの元に帰るのはあきらめた方がいいのかな。
だって、どんな顔をして戻ればいいのかわからない。
そもそもジタンやビビには私の存在すら知られてない。
彼らにとって、私は初対面の人間。
初対面で、クジャとそっくりな見た目をした私が会いに行っても、信用してもらえるはずがない。
もう、諦めるしかないのかもしれない。
…………
「うかない顔をしているね」
「え……」
顔をあげると心配そうに眉尻を下げたクジャがこちらを見つめていた。