第11章 ターニング
クジャが再び私の前に現れたのは、意外にもすぐのことだった。
「調子はどうかな、姫」
「どうもこうもない、って毎回……もしかして言わせてる?」
「いつも通り調子はいいみたいだね」
いつもと同じセリフを言うクジャだったけど、その顔はどこか気分がよさそう。
次に顔を出したとき、私をこの空間から出してくれる約束だったけど、もしかしてクジャも楽しみにしてたのかな?
……なんで?
「ここまで準備するのは本当に大変だったんだ。霧をことことと何年も熟成させて……それを君の体として使わせてあげるんだから、少しは感謝するんだよ」
感謝するんだよ、なんて高圧的な言葉をはきながらも、わくわくが抑えられないような表情でこっちを見てくるクジャ。
なんだ、この人。
言っていることと表情がかみ合ってないけど。
うーん、ツンデレかな?
私が失礼なことを心の中で思っている間にも、クジャはぺらぺらと今までどれだけ大変だったかを語っている。
とにかく、クジャは私のために新しい身体を用意してくれたらしい。
「ありがとう、まさかクジャが私のためにそこまでしてくれると思ってなかったよ」
「ふふふ、だから言っただろう。僕は君の味方だってね。もっと感謝するといいよ」
クジャは自慢げに美しい顔を緩めると、手入れのいきとどいた銀色の横髪をいじる。
ここまで残念なイケメンというのも珍しい。
「これから新しい身体に君の心を移動させるけど、定着するまでは不安定な状態だから、君には少しの間眠っていてもらうよ」
私の正面に立ったクジャは、私の額に手を乗せた。
さすがに少し緊張するな。
本当にクジャの用意した体に入っていいのかとか。
ダガーのためにクジャをどうにかしなきゃいけないんじゃないかとか。
考えはまだまとまっていないけど、でも解決策がでないまま、この何もない空間にいてもしょうがないから。
どうなるかはわからないけど、今はされるがままに身を任せてみよう。
のちに後悔するとも知らず、どきどきと目をつむったまま、私は意識を遠くに飛ばした。