第11章 ターニング
「残念ながら、もう手遅れだ。ブラネ女王はすでに王女様から召喚獣の力を抽出済みだよ」
「そんな……」
足の力が抜けてその場に座り込んだ私を受け止めるように、クジャは私の両肩を抱いた。
「君が責任を感じる必要はない。もうガーネット姫のことは忘れるんだ」
私を包み込むような声が頭上から降ってくる。
その声色は柔らかく、本当に私のことを愛しんでいるようだった。
「大丈夫、時間はかかるかもしれないけど、きっと忘れさせてあげる」
「はなして……」
忘れるなんて、そんな無責任なことできない。
ダガーにはこの世界に来て本当に色々お世話になった。
どうしたってダガーには幸せになってほしい。
私が無理やりクジャから体を離すと、彼はしょうがないというように息をはいた。
「もうそろそろ準備ができる。次君に会いにくるのは、君がここから出るときになるだろう」
近くで立ち上がる気配がすると、すぐに靴音が遠ざかっていくのがわかった。
一人の空間になって、考える。
私に何ができるだろう。
このままブラネ女王の思い通りにしていたら、この世界がめちゃくちゃになっちゃう。
ブラネ女王を殺す?
ううん、それはきっとダガーが悲しむ。
だったらブラネ女王を改心させる以外に方法はない。
元々は優しい人だって言ってたし、きっと止めることはできるはず。
そもそもブラネ女王を手引きしているクジャをどうにかしないと。
そこまで考えて、はっとした。
どうして私、今まで普通にクジャと話してたんだろう。
「だって、なんか、クジャが優しいから……」
クジャの私に対する声は、なんだか気を許しているみたいで、話しているとこちらまで気が抜けてしまうのだ。
いけない、気を引き締めないと。
都合がいいことに、クジャは私のことを近いうちに開放してくれるみたいだし、そしたら、クジャを……。
そう考えると、少し胸のあたりがもやっとした。
この数日、クジャとばかり話していたからか、そんなに悪い人じゃないんじゃないかって気持ちが私の中で芽生えてしまっているんだ。
いけない、気持ちを切り替えないと。
「でも、どうしてクジャは私を気にかけてくれるんだろう」
そこまで考えて、私は思考を切り替えようと、再び頭をふった。