第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
タイチside.
「その命令、どうかお取り下げください!」
ひらりと巨漢の女の前に出ると、女将軍は首を垂れさせた。
「ほほう……このブラネに逆らうとは、どうしたことじゃ、ん?」
ブラネ……そうか、この人がブラネ女王なのか。
この人がダガーちゃんを殺そうとしていた張本人なのか。
「ブラネ様、私の使命はガーネット様の身を守ること……どうか、これ以上ガーネット様に手をお出しにならないでください! あなたたち、この場は私にまかせて早く逃げなさい!」
女将軍が剣をかまえ俺達に暖炉の隠し道へ進むように促す。
近くにいたビビがロウソクをいじるとガコンという音に合わせて道が開いた。
「私はこの場を去れぬ! ジタンよ、早く逃げるのじゃ」
「ついさっきまでは敵と味方だった者が今は手を組むのか、ほほう、面白い……」
ブラネ女王に刃を向ける女将軍の横にフライヤさんが並ぶのを面白そうに見ると、女王は道化師達に視線をやった。
「ゾーンとソーンよ、私を本気で怒らせた奴らを徹底的にやっつけておしまい!」
「お母さま!」
ダガーちゃんの呼び声むなしく、ブラネ女王はそのまま振り返ることなく部屋を去っていく。
つらいだろうな……母親に殺されそうになるなんて。
王族ともなると俺が及びもつかないようなことがきっと色々ある。
王女であるダガーちゃんの背負っているものはきっと重い。
部屋の入り口から巨大な犬のようなモンスターが二体姿を表した。
ピンク色のそいつは非常に凶暴そうに喉を鳴らすと、迷うことなくフライヤさん達に襲いかかる。
「フライヤ! 後をたのんだぞ!」
「まかせておくのじゃ!」
「さあダガー! 行こう!」
促すジタンにダガーちゃんが頷くと、彼女がこちらに視線をよこした。
「タイチもはやく!」
彼女達と一緒にいると思う。
俺も自分のやるべき事に目を向けなきゃいけない、って。