第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
タイチside.
彼女はダガーちゃんの横たわるソファーの元まで歩くとその場にかしずく。
その姿はまさに従者そのもので、先ほど体感した戦闘の実力も鑑みると、彼女は王家であるダガーちゃんのすぐ傍で従事していたのではないかと予想できた。
ぶつぶつと呪文が唱えられると、女将軍の手から温かな光がこぼれる。
「我らのかけた魔法は、簡単にはとけないでごじゃるよ!」
呪文を唱え続ければ手のひらの光はより強くなる。
「何度やってもムダでおじゃるよ!」
光は輪となり彼女の額の上で輝く。
「う……、うん……」
小さなうめき声があがると、ダガーちゃんはぱちりと目を開けゆっくりと起き上がった。
「ガーネット様、お気づきになられましたか?」
「頭が痛い……、わたくし……、いったい……?」
「ダガー! オレだよ、ジタンだ! 分かるか!?」
「おねえちゃん!」
「姫さま!」
「みんな!」
ダガーちゃんが視線を巡らせると、俺とも目があう。
よかった……沸き立つ空気に思わず目頭が熱くなると、再び部屋に不躾な足音が響いた。
「何の騒ぎじゃ!」
凛と通る声に一気に部屋の温度が下がる。
呆気に取られて動かないでいた道化師達が思い出したかのように飛び跳ねた。
「こいつらがガーネット姫を!」
「さらおうとしているのでごじゃる!」
「ガーネットか……」
声の主を振り返って見れば、部屋の入口にデンと立つ巨漢な人。
口紅を塗っていることから女だとわかるけれど、放たれる雰囲気が普通の人ではないと主張している。
そもそもこの部屋に来た時点で一般人ではないと思うが。
「もうガーネットからは全ての召喚獣を抽出したのか?」
「抽出したでおじゃる!」
「だったら、はやくガーネットを捕らえて牢屋に閉じ込めておしまい!」
「はっ? なんでだよ」
驚いた拍子に声が出ると、ぎろりとした目線に射竦められた。
「分かったでごじゃる!」