第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
タイチside.
「ねえ、ジタン……」
今まで黙っていたビビがそっと声を出した。
「おねえちゃん、このままずっと目を覚まさないの?」
「そんなことはないよ。ただ、ちょっと疲れて眠っているだけさ……みんな、少しダガーを休ませてあげてもいいか?」
皆それぞれに頷くと、ジタンは「ありがとう、みんな」と呟いて抱きかかえていたダガーちゃんを近くのソファーへと横たえた。
ジタンはそのまま膝をついていると頭を項垂れさせる。
「オレがついていれば、こんなふうにはさせなかったのに……ごめんよ、ダガー……」
その言葉は、俺が付いててもダガーちゃんはこんな風になってしまうのだと念押しされているようで、やりきれない。
少し思うところがあったのかスタイナーさんが首を傾げた。
「おぬし、どうした……? いつものおぬしらしくないではないか? 以前なら、こういう時は自分に食いかかってきたではないか?」
「違うんだっ!! いままで生きてきて初めて分かったよ。怒りや憎しみが限界を超えると感情がわき起こらなくなるってことをな!! 涙さえ流れやしない……」
少し驚いた。
俺が見てきた中で、ジタンがこんなに言葉を尖らせることなんてなかったから。
何と言葉をかけるべきか、選びあぐねていると部屋に数人の足音が増えた。
「いたでおじゃる!」
「やつらでごじゃるよ!」
喋り方が特徴的なせいで姿を見なくてもわかる。
また性懲りも無くやってきたらしいピエロ二人と、その二人が連れてきたのか剣士らしき女の人が視界に映る。
「お久しぶりですね、スタイナー。これまでどこへ行っていたのですか?」
毛先が大きくカールした栗色の髪を揺らした女の人は、冷徹な視線でスタイナーさんを一瞥した。
「まさか、このようなケダモノたちと遊んでいたわけではないでしょうね?」
「なんだとっ! ケダモノはいったいどっちだと思っているんだっ!!」
「まだ、こりていないようですね」
ジタン達が彼女に臨戦態勢をとった瞬間、女の人の纏う空気が殺気立った。
ピリッとした空間に緊張が走る。
「アレクサンドリアに歯向かう者は私がゆるしません」
この人は誰なんだ……そんな俺の疑問が解消されることなく、いつの間に抜刀したのか、女の人がこちらに向かって剣を振り下ろしていた。