第10章 消えたココロ~アレクサンドリア~
タイチside.
しゃがんだフライヤさんが紡いだ言葉に俺はバッと顔を上げる。
聞き間違いか?
今、ダガーちゃんが生きてるって聞こえたけど……。
俺は慌ててダガーちゃんのきれいな黒髪をよけて首元に指をおいてみると、確かにそこからは脈を感じて、一気に力がぬけた。
「ああ……、分かっているよ」
「えっ!?」
ジタンまで……死んでたって勘違いしてたのは俺だけか?
そう思ったけど、ステージの端で未だに嘆き声を上げるスタイナーさんに気づく。
こちらのやり取りに気づいていない様子どころか今にも自分の命まで投げ出しそうで。
なんか、本当に力が抜けた。
程よい所で声をかけてあげよう。
そんなことを思っていると、ジタンがダガーちゃんの首後ろと膝裏に腕を差し込んで、彼女の体を持ち上げていた。
黒髪が重力のままに垂れ、ジタンの腕の横で揺れる。
「はやく、こんな場所からは立ち去ろう」
たぶん、ほんの一瞬のことだったんだと思う。
照らされたライトがさらりとした金の髪に光って、ジタンの苦く寄せられた目元と合わさり一瞬泣いているように錯覚する。
青い瞳が視線を落とす先には、アンティーク人形として売っていたら絶対に高値がつくだろう程に端正で美しいダガーちゃん。
ジタンがダガーちゃんを抱き上げた一瞬の光景。
それが一枚の絵として俺の脳裏に焼き付いていくのがはっきりとわかった。
何でこんなに目が離せないのか。
だけどただ、目の前でゆっくりと流れるそのシーンにひどく心を揺さぶられる。
……
……
その時初めて
俺は彼女に告白したことを後悔した。
「どうやら追っ手は来ぬようじゃな」
ろうそくをいじるとあっという間に今来た道は代わり映えしない暖炉へと姿を変える。
「ブラネ女王様……いったいどうして姫さまをこのような目に……」
ダガーちゃんが生きていると知ってだいぶ落ち着きを取り戻したスタイナーさんが、絞り出すように呟いた。
「このスタイナーが命を賭けてお守りしてきた大切な大切な姫さまを……それは、ブラネ女王にとっても同じだったはずでは、ありませぬか!!」
「スタイナーのおっさんよ、あんたの気持ち、痛いほどよくわかるぜ」